マクガフィン

ミスミソウのマクガフィンのレビュー・感想・評価

ミスミソウ(2017年製作の映画)
3.8
閉鎖的な田舎に転校してイジメにあう少女の物語。原作未読。

田舎の冬の雪高原や枯木の静謐なロケーションと排外的な敵愾心からくる閉塞感。廃校寸前で吸収される中学高のどうでも良い感や、どん詰まり感。ぬめった小さな沼のような穴の背景描写に、自然音と共に不穏さを伝える音楽で雰囲気は抜群で、ミクロなコミニティの中に渦巻く狂気が相乗して、独特の愛とタナトスを描きだす。地域共同体の中に飲まれる血縁共同体が悲し過ぎる。妥協をしない残酷なイジメ描写は救いのない絶望感が漂い、とにかく映倫区分がR15なことに驚く。

雪と血、雪と炎、白と赤のコートの対比などの白と赤の色のコントラストが特徴的で、大谷凜香の死を暗示するかのような全身白コーデが印象的に。雪高原に鮮血が飛び散る美しさが抜群に良く(前半の血の薄さが気になったが)、ダークな世界観と自然で無垢な白い雪景色の対比が良い。

より寒くなり雪が積もっていき、寒さで白い肌がより白くなり、皮膚色の変化で冷感さが増すことで心象描写に味を加える。大塚れなのチャッキーのような丸顔の特徴を活かした演出も巧み。

スプラッターに特化したシンプルな復讐映画かと思いきや、中盤以降に各々の登場人物のバックグラウンドが明かされていき、次第に海底の砂地で共食いし合うような刹那的なノワールに変貌していく世界観に圧倒される。また、さり気ないミスリードで物語が終息に向かうと思いきや更なる山場に繋がる構成にも驚く。序盤でミスミソウを撮影していた本当の理由が終盤に分かった時のサイコパス診断クイズの答えのような、悪寒を味わうイヤミスならではのシークエンスに唸らされる。

理不尽に始まるイジメ、家族に心配させないように気丈に振る舞うこと、イジメ側の因果やデメリットなどのイジメに対する双方のディティールが抜群で、それと同時に無責任な担任教師や親達の大人たちの行動や一方的な思想がイジメ解決の分岐点の誤りを描写したシーンを積み重ねることで、非現実的な世界観が地続きのように繋がっているかのような妙な説得力にも。逆に世界観のリアリティが感じられない所以は、北野映画のように警察(機能)を排除したような設定だからで、その方がコミュニティ機能の崩壊と村社会の枠組がより強固となり、メッセージ性が高くなるので好みだが、過激描写と同様にその辺で好みが分かれるのでは。(そう考えると日本の警察の役割は大きい)

勝手に偶像崇拝して自己イメージが崩れた身勝手な一方的な愛の暴走は、アイドルを偶像崇拝するかのようで面白く、愛するほど憎しみが増すカタストロフィー理論のように。ヒエラルキーが逆転したり、崩壊する模様も興味深い。全編通じて(一方的な)愛の暴走がトリガーになり、屈折した愛とて純度を上げれば心に刺さる演出が抜群に上手い。

イジメ・暴力・殺人・復讐の描写を丹念に積み重ねた末路を呈することで無常感に打ちひしがれる。ラストの十字架を背負うことと因果応報をメタ的に描いたキズ跡を見ると、争いの末の虚無感が漂い、何とも言えない余韻が心に引っ掛かる。「自己中心的」「同調圧力」「責任放棄」「傍観者効果」といった現代社会へのメタファーが溢れるが、タイトルを連想するほんの僅かな希望が救いか。

イジメをした者のトラウマやその後の描写と大人の対応の悪さを描いており、イジメ抑止にもなるのではと思ったが、如何だろうか。