アズマロルヴァケル

ミスミソウのアズマロルヴァケルのレビュー・感想・評価

ミスミソウ(2017年製作の映画)
3.7
『ヒメアノ~ル』超えではなかったスリラー

・感想

実はこの映画に関しては劇場公開前からかなり期待していたのですが、良くも悪くも期待を裏切られた映画でした。

まず、映画の原作となっている押切連介の『ミスミソウ 完全版』は上下巻ともざっと目を通していたので原作の再現というのは結構忠実に出来ていたものだと思いましたが、所々『あれ、ここって映画版ではそう描くのか……。』とちょっとした違和感はありました。

というのも、例えばこの物語では曲者である相場が暴力的な面を伺えるある過去に関しては実に台詞だけの説明であり、原作では描いているのに対して凄く省略されているので、原作を未読の人には相場の過去の描写がないためにちょっと物足りない感じにはなっている。また、映画自体は主人公の野咲とその家族の関係性というよりも、野咲と小黒の友情を描いたような気はする。なので野咲と妹との関係性だったり祖父の満雄との関係性はちょっと小さくなっている。

ただ、褒めたいところもいくつかありました。まず、野咲が苛めっ子たちに復讐するシーンはまさに恐ろしかった。特に野咲き中田青渚演じる橘吉絵ら3人を殺す辺りなんかは若干合成や特殊メイクのせいでコミカルにしちゃってるところが否めないのですが、掴みは悪くなかった。あと、野崎が遠藤真人演じる池川努をやっつけるところなんかはどこかで観たレイプリベンジを彷彿させられるシーンで好感が持てた。

役者陣に関しては、なんといっても主演の山田杏奈は代表作とは言い難いものの、この映画で一皮剥けたなぁというのは全編通して感じられた。そして、苛めっ子側である大塚れなや中田青渚、更に男性陣だと大友一生や遠藤真人といった曲者たちもキャスティングが良かったのではないかと思う。

でも、この映画で勿体ないなぁと思ったのは大谷凜香演じる小黒妙子だったのではないかと思う。原作ではちゃんと野咲と小黒が苛めっ子と苛められっこのような関係性になる前のエピソードも挿入されているのにも関わらず、原作通りに野崎が小黒たちに苛められるところからはじまるのでどうも主軸である野咲と小黒の関係性は弱いような印象があった。


結論としては原作のいい部分は最低でもオリジナルの描写も相まっていい感じに物語として入れられていて、殺人シーンもちょっとアメリカのB級ホラー・スリラー映画にありそうなシーンがありつつ上手く成功していて圧巻ではあったものの、一方で原作にある森田亜紀演じる担任の先生が除雪車で死ぬ下りだったりオリジナルにある野崎と小黒の関係性を入れたりして何を見せようとしているのかが取っ散らかっているような状態ではあった。なので、ラストも衝撃的ではあったが、野咲と小黒の関係性は少々薄いので『ヒメアノ~ル』や『ファウンド』のあのラストほどの衝撃ではなかったです。

それでも、各登場人物の狂った様や包丁やボウガン等を用いたグロシーンはこれでもかと魅力的だったのでヤバイなぁとは思う。もしこの映画が『冷たい熱帯魚』の園子温だったり、『孤狼の血』の白石和彌だったり、そして『ヒメアノ~ル』の吉田恵輔だったら完成度の高い映画版『ミスミソウ』は出来たと思うし、シッチェス・カタロニア映画祭といった各映画祭でも称賛できたんじゃないかとも感じてしまった。