TAK44マグナム

ミスミソウのTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

ミスミソウ(2017年製作の映画)
4.5
大人たちが知らない殺し愛。


押切蓮介によるホラーコミックが原作。
未読ですが、個人的には、これは映画を楽しむためには未読のまま観るほうが良いかもしれません。
何故なら、(画像検索して見たかぎり)ウリの1つであろうゴアシーンの画の再現度が高いような気がして、それならば原作を知らないまま観た方が映画としては純然と楽しめるような気がするからです。
あくまでも、「ホラー映画」として本作を捉えて鑑賞する場合に限っての話ですけれどね。
ドラマとして楽しむならば、原作をどう料理して実写化しているか比較する事に重点をおくのも良いかと思います。



閉鎖的な田舎町に越してきた野咲春花は中学校の同級生たちから陰湿で凄惨なイジメを受けていた。
心配した両親の助言もあって不登校を続けていたある日、家が火事となり、両親は死亡、幼い妹は重症を負う。
しかし、それは春花をいじめていた同級生たちの仕業であった。
自身も死を強要され、事実を知った春花は復讐の殺人マシーンと化し、次々と事件に関与した生徒を殺めはじめるのであった。


小学生の頃、いっぱしのいじめられっ子だった自分にとって、かなりズーーンとくる重たい映画でした。
昔のいじめはもっと単純で子供じみていましたが、もうね、本作で描かれるのは立派な傷害事件ですからね。
いや、人を焼き殺したり、自殺を迫ったり、ヤクザもびっくりな凶悪ぶりでしょう。
しかも、別に人を殺したことに悩むでもなく、後悔し始める女子生徒でさえ結局のところ心配しているのは「親に知られたらどうしよう?」という自分の保身だけ。
誰一人反省の「は」もしやしない。
そんな奴らは中学生だろうが何だろうが殺されて当然、目には目を歯には歯を、じゃないですか。
と、思うように作られています。
復讐劇のセオリー通りですね。

春花が復讐してゆく場面は、淡々としながらも暴力的で、そこは春花の行為を「やってはいけない事だけれど、相手が悪魔のような奴らだからOK」と共感できるように
なっています。
殺される時まで、ケダモノはケダモノ。
みっともない命乞いや、マンハンティングを気取る餓鬼っぷりに辟易します。


首謀者を残しながらも復讐の刃をおろす春花。
だけれども、それで話は終わらないのです。
彼女をとりまくのは、クラスの女王的存在の妙子、放火の直接的犯人である流美、そして春花を支える相場みつるの三人。
様々な思惑が交じり合いながら、物語は更なる異常性をもって春花を追い込んでゆくのです。
もう、やめたげて!
と、どこか儚い春花を映画の中から連れ出してあげたくなります。


血の雨を降らすことになる担任の先生も含め、「いじめ」という行為に人生を狂わされる子供たち。
本作では、その行為を生み出す元凶を「閉鎖的な土地」そのものにあるとしています。
ある者は未来への希望を潰され、ある者は日常の退屈さを嘆き、ある者は歪んだ過去を塗り替えようとし、ある者は親の愛を得られず、その牙を1人の少女に向けるのです。
それでも、やってよいことと悪いことがあり、中学生ならばその判断はつくはず。
「いじめ」の多くは自己肯定のためだと思うのですが、その身勝手な他人のアイデンティティのために犠牲になる必要など無いと、心の底からそう思わされました。

美しい白景色を密かに紅に染める血を、大人たちは知りません。
ただ、誰もが狂っていたという事実を雪が隠し、その静けさにぞくりとするのみ。
人は儚くも美しく、そして残酷なのでした。


気になった部分は主に3つ。
1つ目は、役者さんたちの演技が一部クサく感じられる点。
中学生に見えないのは仕方ないとしても、大人のキャストもかなりこれはどうなんだろうと思う台詞まわしとかあって興が削がれましたね。
主演の山田杏奈は失礼ながら美人すぎず、素朴な雰囲気が春花役にピッタリだと思いました。
ギリギリ、中学生に見えなくもなかったですし。

2つ目は、ゴアシーンなのですが、そこだけ抽出すると若干物足りず。
特に、母親が焼き殺される場面は、フィリップ・ノワレ主演の「追想」を見習ってほしい!
生々しさがまるで足りていません。
もっと絶望させてくれないと!

3つ目は、妙子の存在です。
ボタンの掛け違いから、親友になれたかもしれない妙子と春花の距離は二度と戻れないほど離れてゆきます。
愛と嫉妬。さらには自分の希望通りにならない未来。
縛りつけられた苛立ちを春花にぶつけ、無責任な立ち位置に収まり続けるハリボテの女王。
それが妙子であり、もう1人の主人公とも言うべき最後を迎えるわけですが、それならば彼女についてもう少し深く掘り下げるべきで、どうにも表層面をなぞっただけに見えるのが残念です。
終盤の、春花との邂逅がやや唐突に感じられるし、難しいキャラクターなのは分かりますが些か散漫な描かれ方なのが勿体ない。
演じる大谷凛香はクールな雰囲気も悪くなかったのですが、人物の肉付けが足りないのは彼女の責任ではないでしょう。
妙子に割くほど尺に余裕がなかったのかもしれません。
しかし、妙子については原作から改変するほどなのですから、その葛藤を、限られた時間の中でもう一歩踏み込んで表現して欲しかったですね。
いまいち、心情が伝わってきませんでした。

とは言うものの、散々小言を書き連ねた気がしますが(汗)、深夜に観始めて、続けて2回観てしまったほどなので、この手の邦画では真摯に作られた良作だと思います。
胸糞悪くもなりますが、是非多くの方に観て欲しい「舐めてた中学生がみんな殺人マシーンだった」映画であり、暴力を否定するために暴力を振るう渾身の一作。



・・・あ、でも、雪の中を弄ると必ず武器が見つかるのは流石にギャグだとしか思えませんでしたよ・・・(苦笑)


セル・ブルーレイにて