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ビール・ストリートの恋人たちのKUBOのレビュー・感想・評価

3.6
1月8本目の試写会は、「ムーンライト」でアカデミー賞を受賞したバリー・ジェンキンス監督最新作「ビール・ストリートの恋人たち」。既にゴールデン・グローブ賞においてレジーナ・キングが助演女優賞を獲得して話題の作品だ。

70年代のハーレム。家庭内暴力もなく、ドラッグもなく、教育も受けている、黒人家庭が舞台。黒人社会を描く映画というと、バリー・ジェンキンス監督の前作「ムーンライト」もそうだったが、家庭環境も悪く、友人関係も犯罪と隣り合わせであるなど、最下層であることが多いが、そういう意味ではあまり見ない「中流」を描いていて、視点自体が新鮮。

と思ったら、鑑賞後にプレスを読んで知ったのだが、公民権運動であのキング牧師と共に闘った作家ジェイムズ・ボールドウィンの同名小説が原作。バリー・ジェンキンスが映画化を切望し、「ムーンライト」と同時期に脚本を書き上げていたのだが、当時は叶わなかった映画化が、「ムーンライト」の成功が可能にしたのだと言う。

ポスターのイメージ通り、美しい黒人カップル、ティッシュとファニーのつつましくも幸せなロマンスが微笑ましい。22歳と19歳という若いカップルながら、ティッシュがふたりの子供を身ごもり、このまま幸せが続くのかと少々不安に思って見ていると、やはり不幸が彼らを襲う。無実の罪でファニーが逮捕されてしまう。ティッシュは母シャロンと共にファニーの無実を証明するために立ち上がるが…

アメリカの司法には詳しくないが、被害者であり、重要証言をした張本人が行方知れずでその証言の信憑性が疑われているというのに、その被害者を探すのも、証言の真偽を正すのも、裁判で訴えられている加害者側が全て自費で行わなければ誰もしないというのが信じられない。

まあ、要するに、黒人は「疑わしくは厳罰」ということなんだが、息子の無実をはらすための金を工面するために、親が犯罪に手を染めるという本末転倒も、黒人社会の不幸の連鎖が哀れでならない。

そして娘の恋人の無実を晴らすために奮闘する母シャロン役のレジーナ・キングの熱演も見逃せない。

「デトロイト」とか「フルートベール駅で」ほど悲惨で過酷なわけではないけれど、真っ当に生きているだけでも不当に扱われ、どこから不幸が降ってくるかわからない。

劇中に「地獄に生きたなら、私たちの子供たちは自由に生きられるかもしれない」なんて言葉があった。この作品は70年代、公民権運動後の世界だが、再び人種的偏見が拡大している現代とも驚くほど通じるものがあるという。

差別や偏見に屈することなく愛を貫くふたりを描いた哀しくも美しいラブストーリー。主演の新人キキ・レインがたいへん魅力的だった。



*ティッシュはデパートで唯一の黒人店員。香水売り場にマネキンのように立たされている。店が如何に先進的かということの宣伝のために雇われているのだそうだが、こういうのを「偽善」というのだろうな。
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