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ビール・ストリートの恋人たちのdojiのレビュー・感想・評価

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思い返しても最良の記憶というものがぼくにもあって、そのときに肌で感じていた空気やそばにいたひとの表情だとか、ぼんやりと焦点がぼやけた街の景色をよく覚えている。この映画を観ている間中、なぜだかそのことを思い出してしまっていた。そのくらい、この映画の映像は記憶の中で遠く美化された光景みたいに、ただひたすらに美しかった。どうやったらこんな映像が撮れるのだろう。

前作に引き続き音楽もすばらしく、効果的に楽曲を使用しているのはもちろん、部屋の中でかかっているレコードと不穏さを演出するサウンドトラックが絶妙なバランスでミックスされていたりと、音響的にもかなり設計されている。屋根に当たる雨の音も生々しくて、どこか夢をみているような感覚と現実感を伴ったリアルさ、そんな真逆ともいえる感覚が喚起されるような、不思議な気持ちになった。

もちろん社会的な問題提起を意図した部分が多いとは思うし、監督の意向がそういったものだとはわかるのだけれど、こんな映像体験はほかではできないなと強く感じた。不気味さの演出も巧みで、このひとの撮る映画ならどんな種類のものでも観たいと思わせるちからがある。そういえば、どこかテレンス・マリックにも通ずるところがあるなあと思った。
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