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スリー・ビルボードのTEPPEIのレビュー・感想・評価

スリー・ビルボード(2017年製作の映画)
4.7
もし政治的でダイレクトに、しかもそれを強意とせずドラマとして巧みに取り入れたとすれば「スリー・ビルボード」はまさにそれだろう。先日発表されたアカデミー賞のノミネート作品として6部門7ノミネートという快挙は勢いとなって、間違いなく真新しいドラマ映画として語り継がれる出来になっている。ストーリーはミズーリ州の田舎町を舞台に娘をレイプのうえ殺害された母親が事件に進展を見せない警察に向け、3枚の看板を立てることから始まる。初めから引き込まれるミズーリ州のどんより、または美しい描写とそこに見え隠れするアメリカ社会の闇、主に保守的な部分がこれから始まる物語を上手く描いている。この映画の素晴らしい点は目を離せぬストーリーとその物語の途中で成長、または変化する登場人物の興味深さの2点に尽きる。しかも現代アメリカに対する挑戦状とも取れる、行き過ぎた保守派と単に娘を無惨に殺した犯人捜査が進まず憎む母親の攻防。この点では今年のアカデミー賞でサプライズなノミネート結果を出している「ゲット・アウト」とは対照的で、こちらはまさにトランプ政権の保守的暴走をあざ笑うかのようにマーティン・マクドナーのブリティッシュジョークが光る。監督としての演出と撮影的には少し平凡だが、脚本のうまさと役者たちの熱演が見事結果に結びついている。
メリル・ストリープはじめベテラン対決となったが、今作のフランシス・マクドーナンドは女優賞の最有力と言える。マクドーナンド本人は最初年齢設定的に、自分は祖母役の方がいいのではないかと提案したそうだが、製作陣の断固とした決意に心打たれたそうだ。なるほどフランシス・マクドーナンドの母親像は心打たれる、後悔と憎しみと、怒りに溢れた姿だ。最後まで画面に重みを与え、観客たちを時に笑わせ、涙を誘う印象に残る役となっている。またそれぞれノミネートされた助演男優のサム・ロックウェルとウディ・ハレルソンの両者はこの映画においてはダークホース。ハレルソンはこれまでと印象の違う良心的である意味この映画の善を表す警察署長を演じきり、本作においては一番興味深いキャラクターである。全ての対照を表したともいえる人種差別者の警官を演じるサム・ロックウェルには個人的にはオスカーを与えたい。サム・ロックウェルは凶暴で時に見える彼の人間味を演じ分けており、ユーモアも抜群だ。
この作品はまさにブラックコメディ。怒り、怒り、怒り狂う。それでもなお希望を捨てず、互いを理解し、何か苦しみを抱えてそれに寄り添うという骨太なドラマとしても見応えがある。脚本賞は間違いないんじゃないかと思わせる、ユーモアと無惨なドラマの融合。同時に西部劇とも言うべきか、とにかく笑いあり涙あり、登場人物の背景と変化が最後まで目が離せぬ映画となっている。
総評として「スリー・ビルボード」は巧みなブラックコメディで3枚の看板を起点に始まるドラマ、交差する感情が人間を魅力的に描いてくれる。ここ最近の映画のなかでエンディングの出来がズバ抜けている。
役者たちの演技もあるが、今ひとつ映像で語れる場面や撮り方も欲しかったところだが命とも言える脚本が凄まじいのでぜひ見ていただきたい。
私用ですが、明日からカナダへと行きます。あちらでも映画を観れたら観て帰ってきたいと思います。
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