まりん

スリー・ビルボードのまりんのネタバレレビュー・内容・結末

スリー・ビルボード(2017年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

これは・・・酷く悲惨だし、救いようがないけど、良い映画だ。
主要登場人物が皆不完全で、弱さを持っていて、迷惑なのだけれど、悪ではない。

娘がレイプされ焼き殺されたら、母親が常軌を逸しても止むを得ない。警察の無力さに腹も立つ。
だけど、暴力に訴えたい訳じゃない。本気で捜査して欲しいだけ。
徐々にエスカレートしていくけれど、それは本位じゃなくて、本当に、第三者の悪意ある行動のせい。
母として、娘の危険を回避できなかった後悔から。
誰かを見送る時喧嘩していて、その後何かが起きたらそれはずっと心残りになるわよね。
哀しかったな‥

Jasonは人種差別主義者で。でも人には言えない劣等感を抱えていたんだな。
その裏返しだったのかもね。正義感は持っている。
ただ、コントロールできない。横柄なママの言いなりだけど、それを指摘されるのは痛い。自分でも分かっているから。
本当に本当に腹立たしいんだけど、彼を変えるのは怒りや圧力じゃなくて、理解や、素朴な優しさだった。

警察署長ウィロビーは、彼の取った行動に、私が意見することは憚られるけど、家族からしたら、辛いわよね。
基本善人だけど、捜査の進行具合の良い訳に自分の体調を持ち出すのは違うと思う。
ただね、そう言う手段を選ぶ前に最善の準備をしたと思う。
ミルドレッドに矛先が向くだろうことは明白だし、Jasonが暴走することも分かっていた。
もうちょっと手紙が早く手に渡って居たらと思うけど、そうしたら彼は変われなかったかもね。

一番腹が立つのは、DVな元夫で、父親のくせに娘の死よりも若い恋人との蜜月の方が大事な感じ。
自分は若い恋人を連れているくせに、元妻のデートの相手には嫌味な態度を取る。
本当に嫌な奴なんだけど、19歳の恋人がちょっとお馬鹿な感じの天真爛漫で凄く良い子で。あんな男には勿体ないくらい。
その二人に、怒りをぶつける代わりにミルドレッドが言うセリフが凄く良い。

そして、関係無い第三者の嫌がらせや心無い言葉や挑発。
そう言う悪意が、事を悪い方に動かしていくの。それがすごく悔しい。だけど実際絶対いるのそういう人。

でもね、逆も居て。
息子は凄く健気で、母を守ろうとするいい子だし、ジェームズの健気さも心を打つ。「僕はデートのつもりだった」って去り際の男らしさは、元夫よりよっぽど格好良いわ。
新署長に彼を持って来たのも上手いけども、看板を立てたとやって来た黒人青年良いなぁ。世間に関係無く仕事を全うする感じ。
だけど何より看板屋の青年よね。
何者でもないような存在感なのに、最初から慈悲の心しか持っていないような彼。
酷い目に遭いながら、最後まで。
彼の勇気ある優しさが無かったら、あの穏やかなラストにはならなかった。
悲惨なままだし、何一つ変わっていないのに。これから人を殺しに行こうって話しているのに、あんな爽やか。心を打つラスト。

#脇役万歳!
まりん

まりん