幕のリア

スリー・ビルボードの幕のリアのレビュー・感想・評価

スリー・ビルボード(2017年製作の映画)
4.5
WANTED!
現代の社会的弱者による寓話的西部劇作品か。

声をあげなきゃ届かない。
届く相手はきっといる。
誰かのパスがなきゃゴールには至らない。

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以下ネタバレ。

泣き寝入りは御免と三つの看板広告にメッセージを掲げる。
警察批判というより、田舎町の署長に突きつけられた錆びたナイフ。
どんな真摯なメッセージであっても他者に響くのかは分からない。
むしろ愚行と誹られる。
ただ、ひたすら真剣に、相手を間違う不幸が無ければ、幸運にも作用反作用の法則を目の当たりに出来るやもしれない。

サムロックウェル演ずるアメコミ好きの警察官。
脳内勧善懲悪と虎の威を借る狐しか出来ない低能。
署長との別れの後、解決にもならない弱者への攻撃性を剥き出しにしてから、物語が急激に動く。
新署長から中身の無い権力を衣服を剥がれるかのように奪われる。

届けられたメッセージと最後になる筈だった署内。
そこに主人公の怒りが紅蓮の炎となって襲いかかる。
ある明確な意思を持ったかのように持ち出された書類。
一連の行為に確かな意思が交わったのは、偶然でなく必然。

数多く登場する社会的弱者たち。
嬲り殺された娘と夫にないがにしろにされた妻。
突然の別れを告げる署長ですら権力者では無く末期ガン患者。
新たに署長となったのは余所者の黒人。
瀕死の重傷を救い、そして主人公の危機をも救ったのは、男前の小人。
主人公と小人の邂逅に少し胸が踊るも闖入者により胸が痛む別れになってしまうのが余りに哀しい。
焼かれたビルボードを仕事人として修復にあたる看板職人の黒人青年。
バッジを手離し全身に火傷を負ったもはや何者でない男が、病室で施しを受けたのは衝動的な暴力を与えた男であり、そこで彼は啓示を受けたように運命に導かれていく。

火傷を負わせた女と確実なゴールに向かう男。
この寓話に美しいピリオドが打たれた。

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デトロイトと対をなす作品。
米国社会の闇と宗教的真理にも迫っている。

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ロシア系のアホな彼女。
動物の周りで働き、しおりに書いてあるフレーズを間違えて愚直に誦じている。
スーパーモデルなルックスと空っぽな表情がたまらなくチャーミング。


2018劇場鑑賞9本目
幕のリア

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