ぴのした

スリー・ビルボードのぴのしたのレビュー・感想・評価

スリー・ビルボード(2017年製作の映画)
4.4
お、面白かった…。。。わかりやすい起承転結もなければ、「泣ける!」みたいな分かりやすい感動もないけれど、面白いし感動する。あんまり見たことないタイプの映画。

レイプの末殺された娘の母親が、3枚の看板を立てる。「レイプの末死亡。署長、逮捕はまだ?」その看板をきっかけに、その小さな町の人々は少しずつ変わり始める。

これは一見クライムサスペンスに見えるんだけど、犯人は誰だとか逮捕できるのかとかはそんなに問題ではなく、あくまで閉鎖的な田舎町に暮らす人々が、その怒りの看板を受けてどう変わっていくのかっていうところに焦点がある人間ドラマのように思った。

サスペンスの皮を被った人間ドラマと聞くと、最近だと『三度目の殺人』とかが近いかもしれない。ただ、この映画の面白いところは、三度目の殺人みたいに終始重たい雰囲気もなく、すごくテンポも良くて見やすいところ。

BGMもわりと多いんだけど、どれも印象的で、そのせいもあってか自分が登場人物の1人になったかのような没入感のある映画というよりは、一歩引いてフィクションドラマとして楽しむことのできる映画だった。内容は軽くないはずなのに、全くしんどくなく楽しく見れた。

この映画、原題は『ミズーリ州エビング郊外の3枚の看板』で、ぱっと見「無駄に長いやん!」と思うんだけど、見終わってから思ったのは、その無駄に長い「ミズーリ州エビング郊外の」というところがポイントなのだと思った。

このエビングという町、一言でいえば南部の田舎である。署長がガンだとか警官がマザコンだとかいう噂はすぐに町中に広まる小さな町で、いまだに黒人や同性愛に差別が強く残っている。そういう町の住人が、互いに影響しあって最後に少しだけ救われるというのがこの映画の一番の面白いところであり、伝えたい部分なのかもしれない。

とくに主人公である母親に投げかけられた「怒りは怒りを来す(きたす)」という言葉がキモになってくる。あの怒りの看板はまた別の怒りを呼ぶだけなのか。本当に怒りは怒りしか呼ばないのか。それがもう一つのテーマかと思う。

ラストシーン、え、そんな感じで終わんのってくらいのあっさりした終わり方なんだけど、この言葉を思い返すとなかなか乙な終わり方だと思った。

アカデミー最有力の割には気負わず観れるので、一人でしっぽり時間のあるときに楽しんでください。