mimitakoyaki

スリー・ビルボードのmimitakoyakiのレビュー・感想・評価

スリー・ビルボード(2017年製作の映画)
4.4
終わった瞬間に、え、ここで終わりか…と思って、その後もしばらくこの作品のことを考えてはジワジワ来ています。

ミズーリ州のある街。
娘をレイプされた上に殺され、犯人は何ヶ月も経つのに捕まらず、警察に対する怒りから、母親が道路沿いの大きな看板に抗議の広告を出したことから巻き起こる騒動を描いています。

どんどんとすごいテンポで展開してどう転がるかわからないストーリーに引きつけられるし、出てくる人物のキャラクターが素晴らしく魅力的。

人は看板の様に表立って見える部分だけを見て、善人か悪人かを決めつけたり、性別、人種などの属性で差別したりするけれども、その人のもっと内面を知り、深いところで理解できると繋がれる。

「怒りは怒りを来す」のとおり、憎悪や怒りは連鎖し増幅するけれど、人の誠実さや相手を思う優しさ、愛にふれた時に、人を許し、自分を許し、救われる。

母親のミルドレッドも、差別クズ警官のディクソンも、娘を無残に殺された悲しみと不条理さ、怒りから人間性を見失ったり、母親から白人至上主義的な歪んだ思想でもって育てられたりしてきた事から、歪さを抱えているけれど、2人とも娘への愛や、母親への愛、署長を尊敬し大切に思う心があるんですよね。

それが、怒りや憎悪によって衝動的で暴力的な粗野な人間になってしまってる。
良い人間、悪い人間というような単純な分け方をせず、多面的に人間の内面をちゃんと描いてるから、途中まで全く共感できず胸糞悪い人物だと思っていても、だんだん物語がすすむにつれて、自分の見方も変わっていきました。

印象的なシーンはいろいろありますが、最後のミルドレッドの告白と、それに対するディクソンの返し、そして、気がすすまないと言う2人。
そのくだりが、この物語に希望を与えてくれてて、さりげない短い会話で、人間は変われるという事や、赦しが伝わってくるのが巧いなと思って、とても良かったです。

ディクソンを演じたサム・ロックウェルと、ウィロビー署長を演じたウディ・ハレルソンは、マーティン・マクドナー監督の「セブン・サイコパス」でも一緒でしたよね。

今作のウディ・ハレルソンがめちゃくちゃカッコいいんです。
苦悩を抱えながらも優しさと愛とユーモアに溢れてて、「スウィート17モンスター」の高校の先生も最高だったけど、今回の署長もとても魅力的でした。

この署長の気持ちのこもった行動や言葉もとても印象的でしたが、あとはオレンジジュースのシーンがね、人間性を感じさせて泣けました。
あのオレンジジュースひとつで赦しや憎しみに勝つ優しさを描けるのが良いなと。

娘を失った悲しみを背負い、自分や周りを責め、怒りに支配され、誰からも理解されずに孤独で、常に戦闘態勢の母親を演じたフランシス・マクドーマンドの演技も素晴らしいし、マンチェスター・バイ・ザ・シーの甥っ子くんも出てて、これからも期待が高まります。

重くて暗くなりがちなストーリーにもブラックコメディのように笑えるシーン、シュールなシーンもいっぱいあって、ディクソンのおバカっぷりや、別れた夫の恋人の小娘も笑かしてくれました。
でも彼女が言う一言がすごく的を射てたりするところも面白かったです。

魅力的なキャラクター、展開の読めないストーリー、深いテーマとともにアメリカが抱える社会問題も背景にしっかり描かれているし、見所満載の素晴らしい作品でした。

4

2回目: 2018.9.4
非常に強い台風が来るっていうので仕事も休みになり家で鑑賞。

78
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