日向日向

スリー・ビルボードの日向日向のネタバレレビュー・内容・結末

スリー・ビルボード(2017年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

この映画に月並みの救いを求めてはいけない。

アカデミー賞最有力である今作。言葉はいらない、本当の意味での怪作です。

ミルドレッドの娘は強姦された後に焼き殺された。凄惨な事件ではあるが、警察は音沙汰がない。それに痺れを切らしたミルドレッドは町外れの3枚の看板に、警察署長に早急な解決を促すメッセージを掲載した。物語はそこから始まります。

この映画にあるのは、底なしの差別、差別、差別! アメリカの現実を浮き彫りにした問題が遠慮なく描かれています。
白人警官の無罪の黒人への暴力、深く根付く差別意識といった現実に起こっている問題をそれぞれのキャラの性格に上手いこと下ろすことができています。
それにより、残酷な真実を観客側に容赦なく示すことに成功してるんです。それがこの映画の面白いところであり、同時に果てしなく恐ろしいところです。

そして、なによりも終着点がわからない!
歯車が狂い、次第に精神の崩壊が加速していくミルドレッドに、良い警官であろうとして足掻くも全てが裏切られるディクソン。彼らを中心に巻き込まれ、そして離れていっては結びつくを繰り返すうちに筋道が深い霧の中に入っていくのです。そうなると、どこがゴールなのか、わからなくなってくるわけです。
だからこそ、満を持して訪れる最後が恐ろしいんです。
なぜなら、画面の明るさ、曲調はハッピーエンドそのもの。2人が乗る車には憎しみと1つのショットガンが積まれて、家を発つ。物語はそこで幕を閉じるのですから。
この終盤の描き方は、藤子F不二雄氏の怪作SF『気楽に殺らうよ』と全く同じ描き方なのです。
その作品では、人を殺すという非人道的行為をさも推奨されるべき行動されており、その様が「朗らかな朝」、「送られる声援」などのポジティブな演出をもって表現されているんです。そんなあまりにも超現実主義的な光景を繰り広げているわけです。
同作を知る自分としてはその演出を目の当たりにしたとき、嗚呼、してやられた! と思いました。

媚びるわけでなく、純粋にアカデミー賞を取れる作品だと節に思える今作。
まだ日本に上陸していない作品が多いですが、是非受賞してほしいと思うばかりです。

希望を抱くための行動が絶望にしか変わらない様をとても人間臭く描いた作品、今すぐ見て欲しいところです。
日向日向

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