まっつん

スリー・ビルボードのまっつんのレビュー・感想・評価

スリー・ビルボード(2017年製作の映画)
4.4
今年のアカデミー賞最有力と言われている本作。それも納得なくらいの傑作だと思いました。

まず本作は脚本の精度が素晴らしいと思います。非常にツイストが効いた先の読めない展開なのですが、そこを目的化せずあくまで語り口はどっしりとした王道感があります。そして伝えていることの射程の広さたるや凄いものがありますね。時にはアメリカだけでなく世界中で起こっている現実の問題に目を向けさせ、時には極めて普遍的なメッセージを我々に突きつけてくる。これはエンタメ作品としては最高級に面白い事を示していると思いますね。

またこの先の読めない展開は本作のメッセージから導かれた必然であるという事も言えます。それは「人ってやり直せるのか?」という事です。本作に出てくる登場人物はみんな何かしらの裏側(看板の裏側が象徴している)を持っていて、その人間の多面性こそが本作のツイストを生んでいると言えます。その中でも最も重要なキャラクターがサムロックウェル演じるディクソンという警官。彼は署長を最大限リスペクトしていながら、とても差別的かつ暴力的、そして頭が悪い男です。警察署の向かいの広告店に殴り込むとことか「バカっ!ちげぇよ!そういう事じゃねぇよ!」って思いましたが笑。そして彼はある事を契機に「生き直そう」と決めるわけですがここで....という展開に胸が打たれます。

フランシスマクドーマンド演じたミルドレッドも良き母親に見えた序盤から中盤にはその多面性を我々は目の当たりにします。ウディハレルソン演じるウェルビー署長に関してはマジ聖人君子。街の人からは慕われていて、挙げ句の果てには美人で巨乳の奥さんがいるという事で良い人生送ったよあんたは....そして広告店のレッドという男。彼が病院でした「ある行い」。この映画のターニングポイントとなる素晴らしいシーンだと思いました。なんでお前そんな優しいの....泣かせてきますね。

そして最終的には非常に大人な着地というか、ラストシーンにミルドレッドが言ったこの言葉に全てが凝縮されていると思います。「道々考えれば良いさ」。本作は怒りに任せ、突発的に行動してしまったが故に各々の思惑のボタンを掛け違えてしまう話だとも言えます。ボタンを掛け違い続けた末に彼女たちは一旦冷静になって「道々考える」事を学ぶのです。これは監督からの「人生はやり直すことができる」という非常に大人かつ優しいメッセージだと思いました。超オススメ。