朱音

スリー・ビルボードの朱音のネタバレレビュー・内容・結末

スリー・ビルボード(2017年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

非常に上品な映画。
これこそ本物のドラマ。

娘をレイプされて殺された母親、ミルドレッドの投じた一石によって、水面に波紋が広がるように街に影響を及ぼしてゆく。
その波紋が次第々々に大きくなり、やがて取り返しの付かない所まで波及してゆく様には得も言われぬダイナミズムを感じられてゾクゾクする。

本作が素晴らしいのはその作劇、語りの巧みさにあると思う。
台詞やモノローグで多くを語るのではなく、細部まで計算の行き届いたフレーミングと編集によって、動きや内省が雄弁に、そして明瞭に語られる。
ミルドレッドが警察署を襲撃するシークエンスにおいて、建物内の不在を確認する行動と、ディクソンが亡き署長からの手紙を読んでいるのが、「愛」「知ったことか」の台詞によって不意にシンクする。
その言葉は彼らの与り知らぬ所でダブルミーニングとなって、観客の心に突き刺さるのだ。

キャスティングや演技にも一点の隙もなく、非常に実在感があるキャラクター達に善意や悪意、憤り、差別感情などの組み込み方も実に自然で見事と言う他ない。
まるで何処かの街で本当に起こったかの様な、信憑性のある物語だった。
ラストシーンの無常感、その余韻はいつまでも残り続ける。
マーティン・マクドナー監督の映画作家としての卓越した技量を知らしめる一作となった。
朱音

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