せーじ

スリー・ビルボードのせーじのレビュー・感想・評価

スリー・ビルボード(2017年製作の映画)
4.6
【文末に年間ランキングをつけました】

124本目。
これは絶対に観ようと思いながらも見逃してしまっていた作品。
今年中に観てMarkしようと思い、ツタヤでレンタル。
ところがこれが一筋縄ではいかない、ごっつい、ぶっとい作品でした。

感想を書くのが難しい…
この作品を要約すると「人の行動における影響と波紋」を"ある事件"を起点に分け隔てなく描いているということなのだろうなと思った。
とにかく、登場人物全員が多面的。なのに矛盾や破綻が全くない。というよりも「人の行動原理には、近視眼的に捉えると矛盾が生じているように見える場合がある」ということを矛盾なく描いているといったほうが正確なのかもしれない。

自分は今まで、映画作品にしろドラマにしろ「物語というものは、とっかかりとして感情移入しやすい人物に肩入れをして観るようにつくられていて、作り手が物語の中でそう指定した人物は、行動に矛盾がなく観客を裏切らない」というのが大体通常のセオリーなのだろうと認識していた。なので、はじめのうちはその通りに観ていたのだけれども、この作品はそういう欲求や先入観を要所要所で全力で、しかしさりげなくひっくり返して否定していく。しかも、この作品の登場人物の行動原理にはそれぞれで繋がりがあり、それぞれの行動が響き合って影響しあいながら話が進んでいくので、「どう話が転がっていくのか」という"興味の持続"が高い位置でキープされているのはもちろん、逆にどの登場人物から遡って考えていっても、"発端"という中心に向かって辿ることができるようになっているというのが凄まじい。平たく言うと「お前がこんなことをしたせいでこうなったんだろーが!」ということと「あんなことが起きなければこんなことにはならなかったのに!」ということが、大小さまざまアタマからつま先まで徹底的に整理され、繋げられている作品、なのだろうと思う。

もちろん、ネガティブな連鎖だけではなく「あんな目に遭ったあいつがあんなことを?」とか「反目していたあいつがああいう時にはそういう態度をとるんだ?」ということも物語の要所で効果的に配置しているので、全貌を捉えようとするまでがすごく難しいし、消化に時間がかかるし、鑑賞後は脳内がカオスな状態になること受けあいな作品になっている。そんなとんでもないことを難なくやり切り、まとめあげている脚本が何より凄い。そして、そんな脚本をブレなく演じ切っている主人公をはじめとする演者の皆さんが凄すぎる。
人間の、良くも悪くもな"人間らしさ"を極限までリアルに描ききった、重厚で骨太な人間ドラマになっているのだなとしみじみ感じました。

ただ、登場人物が全員多面的であるぶん、誰にも感情移入できなくなってしまったりもすると思うので、物凄くリアルだと思う反面、そこで不満を感じてしまう人が現れるかもしれないというのは、避けられないことなのだろうなとも思います。また、バイオレンス描写が容赦なく描かれるので、そこで逆にリアルに感じられなくなってしまう人もいるかもしれません。

100%の善人も悪人もいない"この世界"を、この作品の中でも受け入れられるのかどうかが、この作品の評価を分けるポイントなのだと自分は思います。
もっとも、そういうことは「道々考えていけばいい」のでしょうけれどもね。



今年一年、拙い感想を観てくださってありがとうございました。
最後に、新作・劇場公開作限定で、ベスト10をあげたいと思います。

10位:かぞくへ
9位:アイ・トーニャ
8位:フロリダ・プロジェクト
7位:ペンギン・ハイウェイ
6位:スリー・ビルボード
5位:ぼくの名前はズッキーニ
4位:若おかみは小学生!
3位:万引き家族
2位:勝手にふるえてろ

1位:カメラを止めるな!

でした。来年もよろしくお願いします。
せーじ

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