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スリー・ビルボードのMOCOのレビュー・感想・評価

スリー・ビルボード(2017年製作の映画)
4.0
「ねぇディクソン 打ち明けたい事がある」(ミルドレッド)
「なんだい」(ディクソン)
「警察署を放火したのは私」
「あんた以外に誰がやる?」


 1991年5月14日早朝のテキサス州ヴィドール。自宅から100メートルと離れていない道路脇に停められていた事故車両の中で当時34歳だった女性キャシー・ペイジが遺体で発見されました。
 事故死を装った遺体は検死の結果レイプ後絞殺されていたことが判明し、殺害現場も車中ではなかったことも判明しました。

 キャシー・ペイジ殺人事件はすぐに容疑者として夫スティーブ・ペイジが浮上ました。
 キャシーは1981年に地元の保険セールスマンのスティーブ・ペイジと結婚し二人の娘に恵まれたのですが、夫とは常にけんかが絶えず長い話し合いの末、キャッシーの望む離婚が決まりスティーブが家を出ていくことになりました。
 事件が起きたのはその翌日のことなのです。

 スティーブの嫌疑はそれだけではありませんでした。警察がキャッシーの事故死を連絡しても特に驚いた様子を見せなかったことに加え、その日鼻を怪我していて血の付いた自分の服を隠すところを見た第三者の目撃情報がありました。さらに嫌疑を深めたのは両親や兄弟と共に自宅のカーペットを掃除していたことです。

 キャッシーは左利きの犯人に絞殺されていて、スティーブは右利きを理由に無実を主張したのですが、後に両利きであることが判明しました。また警察に犯人を探さないで欲しいといった訴えを出していました。

 警察は証拠不十分として逮捕を見送ったのですが地元ではスティーブが顔馴染みの警察官に賄賂を贈ったとの噂が流れました。

 キャッシーの父親ジェームズ・フルトンは娘を殺した犯人は明確と、警察に抗議したが門前払いのため1993年ハイウェイ脇に3枚の看板を設置しました。
「警察が事件を終わらせた」
「告白を待っている」
「あなたにも起こり得る」

 それは町の人に事件は他人事ではないというメッセージでありスティーブに自供を促すメッセージでした。

 スティーブは刑事事件として起訴はされなかったのですが、2000年の民事陪審ではキャッシーの死に関係していると判断され15万ドルの支払いを命じる判決がでました。しかし事件の犯人としての逮捕はなくジェームズは看板の内容を変更しながらスティーブの自首を求め続けています。
「娘は死にかけている間にレイプされた」
「スティーブ・ペイジは1981年に妻を残酷な方法で殺害した」
「警察はこの事件を解決したくない。私は彼らが賄賂を受け取ったと信じています。司法長官が調査すべきです」・・・

 真偽のほどは分かりませんが要約すれば「映画になった驚愕の実話」には以上の話が掲載されており、マーティン・マクドナー監督は20年ほど前に偶然道路脇の3枚の看板を見たことでこの映画を着想したと記されています。映画は違った展開になっています・・・


 アンジェラ・ヘイズの母親ミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)は、迷った奴かボンクラしか通らないさびれた道沿いに連続して建つ3枚の空き看板を見つけます。

 アンジェラ・ヘイズは7ヶ月前この道沿いで燃死体で発見されたのですが、地元警察は未解決のまま放置しています。

 ディクソン巡査(サム・ロックウェル)はパトロール中3枚の広告看板を見つけます。
「レイプされて死亡」
「犯人逮捕はまだ?」
「なぜ?ウィロビー署長」

 ウィロビー署長(ウディ・ハレルソン)は再び事件ファイルに目を通すのですが、新たな手がかりを見つけることが出来ないまま、癌を苦にして自殺をしてしまいます。

 ウィロビー署長はミルドレッドに「私の自殺はあなたの看板とは関係ない。」とした遺書を残します。そこにはさらに、町の住人の中には自殺の原因を勘違いしてミルドレッドに危害を加えるものがでてきても頑張って欲しいこと、さらに看板を1ヶ月維持するための支払いを済ませた上で悔しいがあの看板を出したのは頭が良いやり方だと称賛し、未解決の事件はある日突然犯人が酒場で自慢して解決される事がよくあるから諦めずに頑張れと記されていました。
 前後してミルドレッドは務め先のショップで、ウィロビー署長が心配する嫌がらせの来店をうけます。

 ウィロビー署長の自殺で自分を見失ったディクソン巡査は看板を貸した広告社のオーナーに大怪我をさせて解雇されます。

 ディクソンはミルドレッドの勘違いから警察署に放火され大火傷を負ってしまうのですが、ウィロビー署長の遺書と大怪我をさせた広告社のオーナーの優しさに触れたことで正義感が生まれます。

 3枚の看板はある夜放火され・・・
 ある日酒場に現れた男がボソボソと・・・その酒場のボックス席にディクソンが・・・

 そしてミルドレッドとディクソン二人の意識は犯人を通り越して犯罪者に向かっていきます。

 犯人らしき人物に対する報告書は謎です、何かを暗示しているようにも聞こえます。
 話はここからというところで終わりますが、その男の顔を見たときミルドレッドはどんな行動をするのか思い浮かべることができます。

 フランシス・マクドーマンドの演技が素晴らしく、ウディ・ハレルソンとの共演を楽しみに観た映画ですが圧巻の演技はサム・ロックウェルです。

 勘違い、短絡的な行動が予想外の展開になっていく面白いお話です。

 本来ならこの映画がアカデミー賞作品賞と思わせる出来の良さです。
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