イルーナ

ダンボのイルーナのレビュー・感想・評価

ダンボ(2019年製作の映画)
3.7
先月映画界を騒がせた、バートンのディズニーとの決別宣言。
その中には「ダンボは僕そのものだって気づいたんだ。恐ろしい大サーカスの中で働いていて、そこから逃げる必要があった。ある意味で『ダンボ』は自伝的な映画になった」という発言がありました。
公開当時、「ディズニーの実写版シリーズ興味ないなぁ」でスルーしてしまったことが申し訳ない。
おかげでバートンが監督してることすら知らなかったよ……
その評判も、ざっと見た限り「バートンらしさも、オリジナル版の良さも表現できていない」「とんでもない問題作。後半の展開よく通ったな」と賛否両論。
特に後者、問題作って言わしめるって、一体どんな……

オリジナル版は、周囲から疎外された者が、才能を開花させるまでの物語。
わずか64分にペーソスと狂気、爽快感を詰め込んだまごうことなき名作。
それに対し本作の上映時間は、そのほぼ倍の112分。ではどのように違ってくるのか?
まず、開始から20分足らずで、飛行能力に目覚め始めるダンボ。もう最後の最後くらいで習得してたオリジナル版とはえらい違いです。
また、オリジナル版を象徴するティモシー、コウノトリ、そしてピンクの象などは軽く触れる程度。
ピンクの象の出し方は「なるほど、そう来たか!」という感じでしたが、動きが単調で、オリジナル版のファンからしたらかなりモヤっとしそうです。
この辺の動物がらみの表現は、やはりアニメの方が有利ですね……
というか、本作はそもそも人間視点の物語。動物側の視点で描かれていたオリジナル版とは根本的な部分で違う。
そのせいで、ダンボが周囲から異形扱いされるくだりが噛み合わなくなっているのを感じました。
動物視点なら、「同族でありながら、たった一つの違いにより同族と見なせない嫌悪感」を自然に出せていました。
しかし、人間目線で見た場合、人の目を引く異形なら普通に売り物になりそうなもの。
「化け物は偽物で揃えたから、今さら本物の化け物はいらない」という理屈は通じないのでは……
名曲『Baby Mine』も母親が歌うからこそ感動するものなのに、オリキャラが歌うからさらっと流された感が強い。ここもオリジナルとの齟齬が生じてしまった部分だと思います。

こうしてオリジナル版のエピソードを前半で描き切ってしまった本作。じゃあ、後半の展開はどうなるのか?
空飛ぶ象の出現により大成功を収めたサーカス団の前に現れたのは、巨大遊園地「ドリームランド」を掲げる興行師ヴァンデヴァー。
サーカス団は彼に迎え入れられ、ホルトの娘のミリーは、親から否定的に言われていた夢を後押しされる。
しかし彼の正体は絵に描いたような悪役で、サーカス団は詐欺同然の解雇、ダンボが芸に集中できないからと母親ジャンボの殺処分を目論む……
勘のいい人は察しがついたかもしれません。こいつの元ネタはどう見てもディズニーです、本当にありがとうございました。
(ついでに親にトラウマを持つ過去ゆえに、家族愛が理解できないというのは、チャリチョコのウィリー・ウォンカっぽい)
買収に次ぐ買収を繰り返してどこまでも膨れ上がり、コンテンツを骨の髄までしゃぶりつくし、人を冷酷に切り捨てていくディズニー。
そもそも遊園地の名前が「ドリームランド(夢の国)」というのがもう露骨。
さらに演者がマイケル・キートンで、買収されるサーカス団の団長役はダニー・デヴィート。
ペンギンを買収して、旨いとこだけ持って行って切り捨てるバットマンという、ただでさえ悲惨極まりない境遇のペンギンに追い打ちをかける残酷な構図になっている!どんだけペンギンいじめれば気が済むんだ?!

で、クビにされた奴らや元々反感を持っていた奴らが一致団結してダンボ親子の救出に乗り出す一方、ヴァンデヴァーは「不可能などない!」と叫びながら発狂、それが原因でドリームランドは炎に包まれていく。
夢の国大炎上。バートンの経歴を考えると、彼自身この場面で一体どれほどの溜飲を下げたことだろう……
しかも看板の「DREAM LAND(夢の国)」の「D」が落ちて「REAM LAND(騙しの国)」になるというオマケつき。
あの発言を知ってから観ると、もうニヤニヤが止まりません。
ラストの「野生動物は檻に閉じ込めないことを信条としています」も、クリエイターたちに寄り添ったものだろうし、あちらから頂いたものはフル活用。
そしてダンボ親子はインドのジャングルで自由を謳歌していた……
「サーカスの花形スターを目指す」から「サーカスを抜けて自由になる」はリメイクとして妥当だけど、こりゃリアタイで観たディズニーのファンは困惑するわ……
そしてディズニーの雇われ仕事でありながら、ここまで本音全開で作品を作り上げたバートン、もはや感服するしかありません。
こうして自由の身になったバートン。ネトフリの『ウェンズデー』楽しみだなぁ〜。

アニヲタwikiにまとめた記事
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