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ダンボのJIZEのレビュー・感想・評価

ダンボ(2019年製作の映画)
4.2
第一次世界大戦後の経営が傾き困窮した1919年フロリダを舞台にかつては一流サーカスとして名を馳せた"メディチ・ブラザーズ・サーカス団"に飼われた異常に大きな耳を翼に変えて空を飛ぶ子ゾウ"ダンボ"が引き離された母親ジャンボを救出するため一歩を踏み出す力強さを描いたディズニー実写映画‼︎つぶらな瞳のダンボの仕草や歩き方がCGとは思えないリアルな動きで興奮して目を奪われた。おもに"居場所のない者や異形の者が概念を突破して何かを成し遂げる映画"である。またディズニー実写映画枠では昨年11月に観た『くるみ割り人形と秘密の王国(2018年)』以来だが風変わりな世界観だけ取ればダンボのほうが数倍楽しめた印象を受ける。すなわち作品の後半では科学のパビリオン的な世界博覧会の"ドリームランド"という遊園地顔負けの会場を近未来風に作り上げつつも作品の前半では馴染みの古典的な牧場を映し出す。前半と後半で絵変わりの巧妙さがさすがほぼ芸術家にして巨匠ティム・バートンの作家性が柔軟に活きた印象を思わせる。また強欲な権威者が平穏な街をおびやかし世界を牛耳て間違った方向に世界を転覆させようとするシナリオは筆者が大絶賛する傑作映画の『トゥモローランド(2015年)』を彷彿とさせなくもない。無茶苦茶なやり口でパビリオンを経営するマイケル・キートン演じる金儲けを企む興行師の馬鹿っぽさや突き抜けっぷりが最高でした。ディズニー潮流にみるヴィランとして知能が抜け落ちてるための役不足感は否めないが権力で物を言わす典型的な悪者として一癖も二癖もある感じは観てて非常に痛快だった。個人的に印象深かったのがサーカス描写で全方位を客席が囲む円形ステージをフルサイズで活用してダンボが飛び回る描写はまさしく実際のショーを鑑賞している感覚で迫力アリの見応えたっぷりな娯楽映画だったように思う。

→総評(紳士淑女の皆様、さあステージの開幕だ!)。
総じて監督ティム・バートンの畸形で愉快な作風とディズニー古典クラシック長編アニメ映画の融合が功を成した王道の秀作に思える。元々バートン映画に関してもそこまで免疫はなく美的感覚に優れてアートに飛ぶ映像で思考を刺激させてくれるすきな監督の一人だったが本作を経て新たな彼の集大成的な完成度に到達した感じがうかがえた。作品メッセージ性でも置かれた逆境をむしろ利用して困難を突破するシンプルかつ家族の暖かさに触れさせる映画だった。中盤辺りから赤ん坊ダンボの繊細な動きや失敗を経て成長するプロセスなど親目線で鑑賞してしまったコトは否めないが。ダンボの母親ゾウの名前が韻を踏んだようなジャンボという名称も本作を観て初めて知りました。そもそも羽根を鼻で吸い込みくしゃみをして宙を舞うという飛行原理もユーモアに飛び後々振り返ればだいぶ斬新な設定だったように思える。鑑賞後はディズニーの長編アニメ版信者のコアな見解も聞きたくなる良くも悪くもテンプレ的なスタンダードさが鼻に付く映画ではあった。が,とにかくエモーショナル高めで母親の元から切り離されたダンボの奮闘劇が周囲のサーカス団の仲間や飼育した家族を巻き込みドラマティックに描かれるため密度も濃く尚バートンの芸術的な世界観を両方堪能できる。終盤のある局面で大騒動の混乱に乗じてドリームランドの頭文字のDが剥がれ落ち同時に興行師ヴァンデヴァーのメッキもメタ的に剥がれるシーンは素直にうまいと思えた。全体的に悪者が商業目的で動物を利用して悪事を企みプロットは近年で『ジュラシックワールド(2015年)』に酷似していて前半と後半で作風や舞台が変わる感じも遊園地ものとして見所かもしれない。主人公を演じたコリン・ファレルの屋根をよじ登ったり孤軍奮闘ぶりも楽しめます。ダンボの真っ直ぐなお茶目感を味わう意味でもクラシック潮流の近年稀に見る人間と動物を交えた遊園地ものとしても成功を収めた佳作でした。
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