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ダンボのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ダンボ(2019年製作の映画)
4.0
 カラフルな大勢のテントが並ぶサーカスの屋台骨、ぎっしり詰まった空間の中、車輪が停まるその音に、ジョー(フィンリー・ホビンス)は一体何度、胸を高鳴らせただろうか?幼き弟はすぐに年齢の近い姉のミリー(ニコ・パーカー)に声を掛け、草むらの上を勢い良く飛び出して行く。だがいつものようにそこに父親の姿はない。一旦落ち込んだ矢先、夕陽を背にした父親は、大きくなった姉弟に語りかける。然し乍ら、戦争から還った強い父親は、大切な左腕を失っている。妻と幼い子供達を残し、戦地へ赴いた彼は命は取られなかったが、戦傷者として還ってくる。そこに待っているはずの妻の姿はない。マックス・メディチ(ダニー・デヴィート)率いるメディチ・ブラザーズ・サーカスに引き取られた2人の幼き姉弟は全国各地を転々としながら、両親のいない不遇時代をひたすら耐え忍んだ。そこに父親が戻ると同時に、一匹の子象が誕生する。母親によっておがくずやわらで厳重に覆い隠されたその子象は、象らしからぬ大きすぎる耳を持っていた。その滑稽な姿は、これまでのティム・バートン作品同様に「異形の悲しみ」に溢れている。

 ディズニーの1941年のアニメーション作品『ダンボ』の実写リメイクである本作は、サーカス団の顔触れこそ様々な人種で溢れ返っているものの、社会の隅に追いやられた人々が起こす一揆など、強烈なティム・バートンの署名がそこかしこに見える。ダンボの世話を任されたホルト(コリン・ファレル)こそ新機軸だが、『バットマン リターンズ』と善悪が完全にひっくり返ったV・A・ヴァンデヴァー(マイケル・キートン)とマックス・メディチとの主従関係がおかしい。少しでも労働者たちの生活が楽になればと、藁にもすがる思いで飛び込んだ「ドリームランド」のディストピアぶりも相当に皮肉めいていて滑稽だが、今作の雇用主であるウォルト・ディズニーは、明らかにディズニーワールドを想起させるような「ドリームランド」の世界観を諸手を挙げて承認したのだろうか?物質主義の権化のようなV・A・ヴァンデヴァーは時のアメリカ大統領とも被るし、金で買われた籠の鳥であるフランス人のコレット(エヴァ・グリーン )は権力に反旗を翻し、半権力側にあっさりと寝返る。一貫して母性の不在を抱えた姉妹とダンボ、そしてホルトの病巣を回復させるようなコレットの姿はひたすら痛快だが、社会の隅に追いやられた人々の反乱のモチーフに、ティム・バートンの描写が冴える。
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