カツマ

ガーンジー島の読書会の秘密のカツマのレビュー・感想・評価

4.0
雄大に自然は語る。消せない戦争の傷痕を、そこで生きる人たちの想いを。あまりにも悲劇の歴史は重過ぎるから、最後くらいハッピーエンドで終わってほしい。一冊の本から連なる謎の連鎖に連れられて、彼女は封をされたページを開く。そこに書かれていたのは透明色の物語、隠されてきた真実。ある読書会に秘められた愛の詩が、今、切ない声で読み上げられた。

今作は2008年に発表された小説『ガーンジー島の読書会』を映画化したもので、第二次世界大戦で大きな傷を負ったガーンジー島を舞台にした数奇で運命的なドラマである。主演には出演作の相次ぐ売れっ子、リリー・ジェームズを起用しているが、それ以外の役者は地味ながら確かな演技力を持つ陣容で固められた。監督には『フォー・ウェディング』『ハリーポッターと炎のゴブレット』など、実績豊かなマイク・ニューウェルを配置するなど、安定感のある布陣が見事に機能した実直な作品だった。

〜あらすじ〜

1941年ガーンジー島。そこはナチスドイツの占領下にあり、住民たちは日々、監視の目に晒されていた。そんな鬱屈を晴らそうと、酒を飲みに集まった4人のメンバーたち。だが、帰路の途中、ナチスの兵士に見つかり、一触即発の状態になってしまう。それでも彼らは、その場の機転で読書会をでっち上げ、検問を回避。その後、読書会は『ガーンジー島文学・ポテトビールパイ同好会』という名で継続された。
時は経ち、1946年、戦後のロンドン。作家のジュリエットは、サイン会や講演会で大忙しの日々。そんな彼女の楽しみはガーンジー島の読書会の一員、ドーシーとの文通だった。お互いの本について語り合ううち、ついに一念発起の末、ジュリエットはガーンジー島の読書会に押しかけることを決意する。
船が出る刹那、ジュリエットは恋人のマークからプロポーズされ、豪奢な婚約指輪を贈られた。婚約者に見送られ、島への期待に胸を膨らませるジュリエット。だが、いざ読書会に参加してみると、ドーシーの手紙の中に登場していたある人物の姿が無くて・・。

〜見どころと感想〜

本作は非常にハイクオリティかつ、完成度の高い作品である。謎を小出しにする物語といい、主人公の成長の過程といい、原作の素晴らしさを整頓された構築美で届けることができている。ガーンジー島の美しい風景と溶け合いながら、現代パートと過去パートをバランス良く配置。紐解かれるべきメッセージは過酷な歴史を背負いながらも、今、生きている人たちのドラマとして機能していて、主人公の精神的な前進と、悲哀の歴史に飲み込まれた島に救済のように響いた。

主人公のリリー・ジェームズはどうにもブルジョワ感が薄いため、序盤はやや違和感を覚えるも、後半には主人公の本当の顔を浮かび上がらせることに成功している。ドーシー役のミキール・ハウスマンは『ゲーム・オブ・スローンズ』への出演が特に有名で、オランダ出身という経歴を持つ。子役出身のグレン・パウエルは金持ちの設定に完全にフィット。高慢かと思いきや、さほど嫌な奴でもない、というアメリカ人役を上手く好演していた。

第二次世界大戦の爪痕はあまりに深く、そこに生きる人々の人生を木っ端微塵に打ち砕いた。ただ、そんな絶望の中で掴んだ希望。それはとてもとても小さな光で、たった一冊の本のようにちっぽけなものなのかもしれない。しかし、そこから始まったストーリーは、停滞した人生の時計の針を再び進ませ、新たな未来を生み出していく。
これは前進のための物語。深い哀しみというトンネルを過ぎ去った後に待っていた、絶景のような美しい景色であった。

〜あとがき〜

匠のお仕事が炸裂しまくった、そつのない作品でした。こう書くと淡白に思えるかもしれませんが、非常に面白く、感動ドラマとしての完成度が高い作品です。イギリス映画らしい、こちらの期待を裏切らない展開と、そこに至るまでの流麗な脚本が高次元で結実していましたね。

本は、物語は、人生を変えるほどの力がある。それは間違いなく真実で、心に豊かなスポットライトを当ててくれる。今作はそんな一冊の本が呼び込んだ、奇跡のような、でも必然とも呼べそうな物語でした。
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