エクストリームマン

ブリグズビー・ベアのエクストリームマンのレビュー・感想・評価

ブリグズビー・ベア(2017年製作の映画)
5.0
Everyone says they're trying to help me but nobody can find me the new episode of Brigsby.

あまりにも…あまりにも優しい映画で、観た後ではもうこの映画のことしか考えられなくなった(同じ日に観た『アントマン&ワスプ』の記憶が殆ど消えた)。物語の基本というか、出発点にある設定は結構ハードなんだけど、ひとたび“ブリグズビー”に詰まった愛情と情熱に触れると、テッド(マーク・ハミル)とエイプリル(ジェーン・アダムス)夫妻のしたことをただ非難するなんてできない。主人公のジェームズ(カイル・ムーニー)がそうであったように、“ブリグズビー”を真っ直ぐ観ることで、人はもっと優しくなれるはず。

ある特殊な境遇から抜け出して「本来の場所」にジェームズが戻った時、彼が比較的問題なく人々とコミュニケーションできたり、基礎的な教養(どころか、実際ジェームズは応用数学まで理解しているわけだけど)も問題なく身につけていたのは、彼が“ブリグズビー”を視聴していたおかげだ。それに、他のありとあらゆるカルチャーを彼は“ブリグズビー”を通して理解している。また、続きがもうないと知った時、落胆するのではなく、「じゃあ自分で続きを作ろう」とジェームズが思い至るのは、何かを創造する情熱をも“ブリグズビー”から得ているからだろう。彼の25年間は、囚われた、時の止まった25年間ではなく、愛を受け学び続けた25年間だったのだ。

携わった誰もが、結果としてジェームズとジェームズの“ブリグズビー”作りを応援してくれる展開もグッと来る。それは、単に創作を応援するのではなく、彼のこれまでの人生そのものである“ブリグズビー”を肯定し、ちゃんと見てくれたということでもあるのだ。だからこそ、あの場面でグレッグ(マット・ウォルシュ)はジェームズをテッドの元にまで送ってくれたのだろう。

ジェームズがテッドに録音を頼む場面は、面白さと感動が入り交じる、素晴らしい場面だ。ジェームズが“ブリグズビー”を作っていると知った時の、マーク・ハミルのあの表情!そして、声優としてのマーク・ハミルを存分に活かした録音。実写映画で(ある意味当たり前かもしれないが)声優としてのマーク・ハミルがフィーチャーされたのは初めてな気がする。

パンフレットが詐欺みたいな薄さと公式サイトそのままの内容でも許すくらい、とてもいい映画体験。個人的にめちゃくちゃ大事な1作になった。