アズマロルヴァケル

ブリグズビー・ベアのアズマロルヴァケルのレビュー・感想・評価

ブリグズビー・ベア(2017年製作の映画)
4.0
『激ヤバ』な映画

・感想

実はこの映画に関しては、RHYMESTER宇多丸の『週間映画時評 ムービーウォッチメン』で取り上げられていたのでちょっと気になって観てみようと思っていました。

結論からすると、個人的には予想の斜め上を行く良作でした。ハッキリ言って娯楽的にも劇中に出てくる『ブリグズビー・ベア』が実際に実在した場合、例えばNHKでどんな風に放送されていたんだろうと思ってしまうし、ひとつの物語として観ても平和的な内容なんだけどメッセージ性があって面白い。なのでちょっと私の地元の映画館でなんでこれが上映されなかったのかが不思議でした。

うまく言葉に出来ないのですが、私が今まで体験できなかった他人との交流だったり友情だったり、そして青春だったりと幻想的でかついかにもフィクションらしい映画なのになにか大切なことを教えてくれる映画ではありました。


そもそも、映画の内容はざっとは分かっていたんだけど、とにかく偽の父親が自作で『ブリグズビー・ベア』を作り、そして長年に渡って出来たやつをVHSにしてジェームズに見せるんだからなかなか面白いというか凄い。誘拐犯なのに予算どんだけあるんだよ!!と突っ込みたくなるんだけど、要はこのアイデアを考えた主演のカイル・ムーニーは凄いとしか言いようがない。

まず、冒頭でジェームスの偽の父親のテッドが「夢や想像力で厳しい現実から自由になれる。お前のその力は決して誰にも奪えない」とジェームスに言い聞かせるのですが、その時点でこの映画のメッセージ性を物語っており、2回目にこのシーンを観ると、いかにこのテッドのひと言が非常に重要なのかがひしひしと伝わってくる。

物語では、『ブリグズビー・ベア』に没頭ジェームスと『ブリグズビー・ベア』に魅了されてジェームスと映画製作に励むスペンサーがいる反面、あまり『ブリグズビー・ベア』を良くは思っておらず、25年間もの間ジェームスを待ちわびた両親のグレッグとルイーズの描写が両面的に描かれている。極めつけとして後半にグレッグがジェームスに向かって「25年間俺はどんだけ苦しんだか……!」と本音を漏らしたあとに苦悶の表情を浮かべる様は見事で、正直に言うとこの映画のなかでは名シーンではないかと思っています。

その一方で、ジェームスの妹のオーブリーの気持ちも少なくとも感情移入できました。前半でジェームスと対面し、まるで未知との遭遇をするかのように親と一緒にジェームスをハグし、最初はそんな実態が理解できないジェームスに非協力的だったオーブリーだったものの、次第にジェームスと心を通わせていって、最終的にはジェームスとハイタッチするシーンやブリグズビー・ベアの黒目を貼ってあげるシーンとかがあったので微笑ましく感じました。(あとで調べましたが、スリラー映画『ハングマン』に出演していた4人家族の長女というのには気づかなかった。)

あとは、マーク・ハミルが『ブリグズビー・ベア』でブリグズビー・ベアの高い声をやったりサン・スナッチャーという満月のキャラクターを演じたりとなかなかいきいきとしていて面白いです。最後にはジェームスに頼まれて映画版『ブリグズビー・ベア』のナレーションを意気揚々とやっているシーンなんかは思わずニヤニヤしてしまった反面、物語上ちゃんとした意味のあるシーンとして機能しているので良く出来てるなぁと思いました。

ただ、突っ込むとしたら偽の両親であるテッドとエイプリルがジェームスを25年間育てるとして『ブリグズビー・ベア』のセットだったり住居の核シェルターだったりと、テッドとエイプリルってそんなに財力があった人たちだったのかなぁ?と疑問に感じました。あとは後半に出てくる友人のエリックもジェームスの協力者だろうと思うけど、結局どういう人物なのかは説明台詞はないので、観る人の解釈でしか説明できなさそうなキャラクターではありました。


しかしながら、リアリティ重視ではない映画ではあったものの、映画作りの愉しさや好きなことを探求する大切さを伝える作品としては後世に伝えるべき良作なのでは?と思いました。はっきり言えばスペンサーやオーブリーのような高校生が物語で出ているので高校生や大学生には観てて考えさせられるものがあるんじゃないのかなぁと思っております。