むむむ〜。個人的には2018年最大の問題作。
本作ををどのように捉えて良いのか分からず、しばらく筆が止まっていた。手強い映画だ。
※以下、ややネタバレあり
①主人公は被害者ではない?
主人公のジェームス(25歳)は誘拐され20年以上も軟禁されていたわけですが、本作の作り手は彼のことを「被害者」としては描いてない。
そして、ジェームス自身も自分のことを「被害者」とは認識していない。
本作はこの点が重要ですよねぇ。
両親だと思っていた人が実は誘拐犯で、現実世界から隔離されていたというジェームスの特殊な「育ち」は重大な悲劇ではないんですよ。本作においては。
家が金持ちか貧乏か、地元は都会なのか田舎なのか、という話と同じようなレベルで「ちょっと辺鄙なところで育ったけど」くらいの扱いですよね。
少年の誘拐軟禁が異常な事件ではなく、1つの「生まれ育った環境」なんですわ。
少なくともジェームスにとって隔離シェルターの中での偽両親との生活はある程度幸せであった様子。下手したら実の両親の下で育つよりも快適だったかもしれない。
この主人公が被害者でない、という捉え方が本作のユニークなところであり、あまりの事件性の無さに違和感を感じてしまうところでもありますー。
②みんな優しすぎ
文字通りの箱入り息子として、(誘拐軟禁ながらも)愛情を持って育てられたジェームスを待ち受けていた外の世界は、辛く厳しい現実…
ではなかった!
関わる人みんなが、優しいんですよ。
一部のマスコミやカウンセラーを除いては、関わる人みんながジェームスを色眼鏡で見ることなく、彼の嗜好を受け入れ、応援する。
それも、ジェームスのことを不憫に思って優しくするのではなく、純粋に彼のやりたい事に共鳴して優しく協力するというのがポイント。やはり周囲の人間もまた、彼のことを被害者というよりもクリエイターとして扱っています。
この手の主人公に対しては、彼の存在を悪用しようとする人間や、邪魔をする人間が出てくるのが定番なんだけど、ほぼそういう人が出てこない。
主人公が被害者ではない、というのに加えてこの点もまた物語の定石を外しているんですよね。
③全てが上手くいきすぎ。
周囲の理解と応援に加えて、ジェームス自身の現実世界への順応性・コミュニケーション力の高さもあって、彼の新生活はほぼ順調に進んでいく。
そして、自主制作で「ブリグズビーベア」の続きを撮るというのも、拍子抜けするほどうまく事が運んでしまう。
終盤前のある展開で一時的な挫折があるんだけど、これまた驚くほどアッサリと解決される。
この点でも、主人公が困難なゴールに向かってあらゆる障壁を乗り越えて…という定番からは外れていて、障壁がほぼ無い。
つまり、主人公の想いや行動を妨げたり足枷になるような要素がことごとく排除されているんです。例えそれらが物語を盛り上げるための定番要素だとしても。
起承転結の「転」を敢えて抜かしてあるというか。
むしろ起・承・好々・結みたいな。なんじゃそりゃ。
敵が居なければ困難も無い、全てが友好的というファンタジーぶりが、僕にとっては逆に歪に感じられてしまったというわけですー。
ただ、そんな了見の狭いことを考えなければ、話のテンポは良いし、俳優陣も良い味出してるし、素直に「良かったね〜」と爽やかに感動できる映画かな?
僕も最初は「ジェームス、良かったね〜」とは思ったものの、「でもこれってどーなのよ」という違和感もあって、それが何なのか思いを巡らせた結果がこの感想です。