銀色のファクシミリ

赤色彗星倶楽部の銀色のファクシミリのレビュー・感想・評価

赤色彗星倶楽部(2017年製作の映画)
4.3
『赤色彗星倶楽部』(2018/日)
高崎映画祭、鑑賞9作品目。主人公はとある高校の天文部員ジュン。地球に赤色彗星が接近する時、時空が歪み、なにかが起きる。トンデモ学説はさておき、天文部らしく「彗星の核」を作ってみるか。青春ど真ん中だけど目的のないまま過ぎていく日常、のはずだった物語。

今回の高崎映画祭で、見逃せなかった一本。早稲田大学映画研究部・武井佑吏監督による自主制作映画。PFFアワード2017で日活賞と映画ファン賞、田辺・弁慶映画祭でグランプリを獲得して、2018年に劇場公開に。
結論を先に書きますと、商業作品と伍するクオリティの秀作でした。見逃さなくて良かった。

天文部員ジュンとその仲間たちの青春を、サルトルが提唱した哲学理論「実存主義」を絡めて描く物語。織り込まれる様々な示唆を含むセリフ、はっきりと意図をもって作られている映像、商業作品と比肩する美術。粗さも見えますが、多くの長所が完全に上回っています。

主要キャスト5人も商業レベル。抜群にヒロイン感のある手島実優さんと、天文部「うさぎ座の女の子」ユミコテラダンスさんの魅力が、作品を一段高いところに。二人だけのやりとり、「オリオン座とうさぎ座」のエピソードは、緊張感と互いの気持ちが浮かぶ、忘れられないシーン。

この作品の云う実存主義を「目的を持って作られる道具と違い、目的を持たずに生まれる人間。だから人間は自分で目的を見つけて生きていくのだ」と解釈しました。この映画では、目的を持たない「不発の青春の日々」と、目的を見つけたジュンと天文部員たちの彗星接近の日をクライマックスとして描いています。

「不発の青春」の部分は、出口もオチもないまま終わってしまうエピソードで描いているところが商業映画では観られない、本当の日常感でした。
そして作中の国語教師が語る「大事な事は言葉にならない」という言葉。この映画はそういう部分に余白を残すのが見事で、クライマックスも、まさにそういうシーンでした。そして鑑賞後に際立つ、作品ポスターと『赤色彗星倶楽部』というタイトルの秀逸さ。もし機会があれば、見逃さないで鑑賞をオススメする秀作です。
感動的ですらあるポスターですが、ポスター写真の瞬間には、天文部の奸計に嵌ったある人物がいるのが妙におかしく。でも事情を話せばわかってもらえないかな。赤色彗星の謎パワーとかで。まあ、そんなにうまくいくわけ内務省。感想オシマイ。

ちょっと追記。この映画の冒頭で感じたのが「ジャンパースカートの制服、『なっちゃんはまだ新宿』の制服に似ているなあ」だったのですよね。それで最後のスタッフロールで「衣装:首藤凛」の文字が。『なっちゃんは~』の監督様。同一の衣装なのかな? 情報不足でそれだけの話なんですけど。
(2019年4月9日感想)

#2019年上半期映画ベスト10
・『赤色彗星倶楽部』
高崎映画祭にて。チャンスをつかまないと観られない本当に彗星のような映画。ヒロイン手島実優さんと「うさぎ座の女の子」ユミコテラダンスさんのやりとり、「オリオン座とうさぎ座」のエピソードは緊張感と互いの気持ちが浮かぶ忘れられないシーン。
(2019年7月3日感想)