よう

007/ノー・タイム・トゥ・ダイのようのレビュー・感想・評価

4.5
007第25作。ダニエル・クレイグ版ラストの作品。

(ほんのりネタバレに触れてるけど、モロなネタバレは書いてないです)

自分にとって実はアマプラでの007全作配信が色んな意味で今作の鑑賞に影響したのは事実。
007に全く思い入れがない自分にとって、007のどの要素が好きで、どこがそうでもないのかがハッキリした状態で、今作を観たのは大きい。
『女王陛下の007』大支持派だし、『スカイフォール』が最高傑作だと思う自分がまずいる。これだけで007ファンからすればなんとなく「あ、そっち派ね」ってなると思う。


まず、冒頭。
半透明の物の奥からの能面はホラー的な見せ方で、そこ、よかった。
そっからボンドとマドレーヌのイチャつきタイム、からの、ヴェスバーきっかけでの派手なアクション。
ボンド・カー、あんなきれいな円を描きながら、マシンガンも、発煙もやってて、「はい、出た、007的アクション」って感じ。
さらにそこから、まさか007で男女の別れをベタにやるとは思わなかった。
ここのレア・セドゥの泣き顔がとてつもなく素晴らしい(前作ではボンドから離れようとした人がこんな表情するのかっていう)し、列車の別れはいつの時代も「いいものはいい」。
で、そっからタイトルバック&ビリー・アイリッシュの主題歌。
もうここの時点で既にうるっときてる自分を、自分でちゃんと説明できずにいる。

タイトル明けのビル壁の直線、正方形の窓?なんかは『スカイフォール』のサム・メンデス的画作りっぽいなあとちょっと思ったり。

今回、ウイルス絡みの話で、コロナ禍で長い間公開延期になったのがただ大作だからってだけじゃなくて、この点もあったんだろうなと。そりゃ公開に慎重になるよなあと。


(もう誰もが言ってて、みんなが言い過ぎててもはやうざい笑と思ってるけど)アナ・デ・アルマスのパロマはいいに決まってる。
出番少ないけど、初任務というチャームがアップするような設定まであって、いかにも従来のボンドガール的なポジション。
ってだけじゃなく、トータルでのボンドのスケベキャラを逆手に取ったギャグもあって、ここが素晴らしい。
アクションはキレがあるし、真上からのショットで彼女がパンパンパンと撃つショットもナイス。
あと、二人が途中で「乾杯」すんの、ナイスすぎる。
キューバでのくだりは、二人が変な関係になることもなく、カラッとしたまま終わるのがホントいい。

もう一人の若手、ノーミ。
彼女の佇まいはかっこいいね。
自信家な感じもありつつ、だからこそ後半出てくる「00何番?」って2回言う所、めっちゃ好き。数字にこだわってんじゃんっていうね。

さらにメインのボンドガール、マドレーヌ。
冒頭もよかったけど、ボンドと再会した時とかブロフェルドを前にした時のレア・セドゥの複雑な表情は名演だと思う。

アクションは敵・味方ともにガジェット派手めだし、あのウイルスも「どんな仕組みだよ」ってなるんだけど、まあ007的ではあるよなあと。
キャリー・ジョージ・フクナガ監督がドラマ『トゥルーディテクティブ』でやってたワンカット長回し銃撃戦、今作ではクライマックスでやってる。
と言っても、狭い空間だったし、長回しってほどでもなかったけど、いちばんボンドが急いでいる時にその見せ方でやるってのが効果的でいいかなと。

脚本では、いい台詞の掛け合いとか、タイトルにも入ってる〈time時間〉ってワードの使い方とか、印象的な台詞多かった。
フィリックスとバーでのやり取りで、二人がちょっとした賭け事をしながら仕事の話をしてて、そこもなんかイキだった。クレイグ版だと、二人の出会いもポーカーやってる時だったなあってね。

ハンス・ジマーによる劇伴。
キューバでのアクションの時に流れる曲はご当地感があってよかったし
、今回主題歌メロディ使いが印象的だった。特にボンドとマドレーヌのシーンで流れることが多い。
ボンドがマドレーヌのノルウェーの家に行く時、ボンドの車だけが映ってる段階で主題歌メロディが流れるっていうライトモチーフな使い方はいいなと思った。曲が流れた時点で、画面にはまだ出てきてないけどマドレーヌの所に向かってんだなっていう。
あと、ボンドがイギリスの街なかで車から降りた時にあの007のテーマ曲が流れるのもいい。ボンドがMI6に戻る瞬間だからね。「よっ、待ってました」ってなる。


悪役サフィンが物足りない的な意見をちょこちょこ見る。
『スカイフォール』のハビエル・バルデムみたいに、ボンド側にアピールしてくるタイプとも違うし、あんまり直接的に酷いことをしないので、その気持ちはわからんではない。
ただ、こいつの犯罪計画の進め方(他の人が発案したものをのっとる)とか、ボンドへの仕打ちの仕方とか、直接的な感じじゃないぶん「こいつサイテー」って思うけどね。今時な悪役らしさっていう感じかな。
あと、こいつ、大切な人を奪われた憎しみによる復讐心……でも殺さないって点はボンドと一緒だし、マドレーヌを挟んで向かい合う関係性ではあるので、ブロフェルドよりは断然こっちのほうがラストの悪役に相応しい設定だと思った。


007の比較的派手さや軽みのほうが好みのファンは、特にこのラストについては飲み込めない人もいるのでは。
「007でそれやるなよ」っていう。
実際に自分も「そんなつもりで007を観に来たつもりはないんですけど」って思ったけれどね。
ただね、感動しちゃったんだよなあ。
それはやっぱ、『女王陛下の007』のラストがあるから、いつかこうなる可能性も見てみたかった思いが自分の中にあったのかなあ。

『女王陛下の007』で自分がここに書いた感想で、ちょっとだけ不満だった点を今作ではカバーしてくれたなあ。ちゃんとこのラストの余韻を長めにエンドロールで味わせてくれている。
なにせエンドロールで使われてる曲がその作品の挿入歌なんだから。まあ知ったのは、鑑賞後のツイッターでだったけどね。


いわゆる従来の007らしさも、クレイグ版の集大成的なストーリーも、いわゆる007としては禁じ手になるようなことも、全部乗せ。だからこその満腹感。
作品の完成度としてはいちばんにはならないとしても、エモーショナル面ではいちばん感動的な007ではあるかなと。
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