April01

007/ノー・タイム・トゥ・ダイのApril01のレビュー・感想・評価

3.5
序盤と中盤までがとても良くて、自分にとってのクライマックスは振り返ると案外早く来てたのね、という感じ。
特にガールとのドライブでのボンドのセリフWe have all the time in the worldは「女王陛下の007」見てたら、テレサに起きたことを思い出して気が気でないところ。それを十分意識した上での幸せな2人の演出が見事。
墓と女と駅、この一連の流れが最高にエモーショナル。ボンドの愛ゆえの反動としての氷のような態度への反転が半端ない。冷たく突き放し死んでも構わないかのように車の窓越しに銃弾を浴びさせる。すがる女にようやく、そうか、と言って淡々と行動するボンド、駅でのシーンは女の気持ちに共感しすぎて胸が詰まる。

そして色々を経て(正直終わってみると後半のゴタゴタはあまり印象に残ってないことに気づく)、ついにクレイグボンドのフィナーレへ。人間味あるボンドの終着点は、ここに行きつくしかなかったのか?(完全に自分は疑問形です)と諦観するしかない感じ。

現実社会において、人は生まれた時から色んなものにがんじがらめになっている。美談としての家族だったりコミュニティだったりという絆。

00メンバーというのは、シリーズ内でも繰り返し言われるように影の存在、言葉は悪いけど超法規的存在なわけで、美談としての鎖に繋がれず、殺しのライセンスを「持たされて」(←必ずしも希望を持って能動的に目指す職業ではない、特に007の生い立ちにおいては)ただひたすら任務を遂行する人たち。ある意味それも奴隷、ただし自分が絶対になれないタイプの奴隷の生き様として007に惹かれていたことに改めて本作で気づかされる。

彼らが世間一般の美談という常識にブレンドされたら存在意義は一体?答え・・・意義はなくなる。ボンドシリーズで荒唐無稽なまでの同じことの繰り返しがOKなのは、あちらも奴隷、こちらも奴隷ということを観ているものは気づいていて、スーパーヒーローだから凄いのではなく、あの奴隷ぶりが凄いという共感があるのではないかと勝手に思っている。

だから、ついにというべきか、とうとうというべきか、ボンドの見ているものと自分の見ているもの、世界観が同じになってしまったという決定的な寂しさを感じる。
そうしないことも出来たはずだけど、そうすることを選んだね、という脱力感が残る。率直に言って安易でズルいやり方。泣いたという人いるけど、自分は涙なんか絞り出そうにも一滴も出なくて!あれれ?ポカーン状態。

この行き止まりという意味でのデッドエンドからボンドが戻りますってJB WIll RETURNとお決まりの一文見せられても、20年後設定でマチルダ使う?とかアホらしい考えが浮かぶくらい(お気に入りベン・ウィショーQは今作で契約満了らしい)。007ではなくJBが戻るんですよね!!!とスクリーンに向かって念押ししたい気分だった。
様子見の女007小出しだとしたら、中途半端な様子見だったこと。
この先映画は、ますますこうあるべきという道徳の教科書化していくのかな、つまらない。

以上は超ひねくれ感想として脇におき、順当なきれいごとでまとめれば、
カジノ・ロワイヤルでスタートした未熟で経験の浅いデコボコの粗削りな人間味あるボンドの成長物語としてしっかりと完結して素晴らしい、ということになる
April01

April01