ネラとノーチェ

顔たち、ところどころのネラとノーチェのネタバレレビュー・内容・結末

顔たち、ところどころ(2017年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

映画“ヌーヴェルバーグの祖母”監督と新進アーティスト、年の差54歳の二人が織りなすロードムービー。

ドキュメンタリーでありながら、セリフの様な会話、きちんとカットを割った演出。でも、そこは気にせず、作品世界に飛び込んでいけるマジックがある。

JRの特大フォトアートは、時が経てば失われてしまう類の作品だ。早いものなら一晩で自然の力によって消え失せる。
100年後、1000年後の世界が彼のこと、彼の作品を憶えているかは判らない。しかし旅の先々で彼の作品は、即効的に人々を笑顔にし、時に寄り添い、心を癒し、誇りを与える。更にはその場所さえも浄化している様にさえ感じる。ルーブルに鎮座ましましている人類史上のマスターピースたちに、これは出来ないだろうと思わせてくれる。ラファエロもダヴィンチも最早、ホイールチェアに乗ってスイスイっと、流し見していい…かな?と二人に同調したくなる。芸術も時代と共に、その姿と役割は変容を続けてよい。

…心に残ったこと。
全くタイプの違う二件の山羊飼養業者。しかし彼らは決してお互いを否定したり非難したりしない。主人公たちもどっちが良い悪いは語らない。人の数だけ理念も正義も違う。ただ、“私とあなたは違うのね”という事だけ。
そして、登場する人々が皆、自ら、或いは近しい者がモチーフとなる作品について、それぞれ自分の考えや意見を持ち、堂々と語る。
映画の其処此処に成熟した社会を感じ、羨ましく思った。

一服の清涼剤の様な、爽やかな感覚を得られる作品である。