SatoshiFujiwara

泳ぎすぎた夜のSatoshiFujiwaraのレビュー・感想・評価

泳ぎすぎた夜(2017年製作の映画)
4.3
生まれてこの方ずっと東京育ちなもんで雪国の生活は想像力をフルに働かせたってあまり分からないしもちろん実感というものではなく想像の域を出るもんじゃないが、しかしこの作品を観ると今まで様々な映画作品の中でさんざん見てきた雪と冬の諸相、そのどれよりも格段に体と皮膚に直接的に刺さってくる感覚がある。なんか分かっちゃう。

それは6歳の少年たから君のおかげだ。彼にどれだけ「演技」という意識かあったのかはむろん分かるはずもないが、大人だって大変だろう弘前のあの雪を前にしたたから君の一挙手一投足、まるで魑魅魍魎が跋扈する異界に足を踏み込まざるを得なくなったか弱い小動物さながらの極めて頼りなさげなすべての所作。しかしたから君は軽やかだ。

大人であろう観客はこれはあくまでドキュメンタリーっぽく撮ったフィクションなんだ、と分かってはいてもたから君と一緒にさまよって、犬に吠えられ、駅では頭上から雪の塊に直撃され、みかんを食し、手袋を落とし、泥のように眠る。なぜかは分からないがたから君と一心同体となるような感覚。だからこの冬はひたすら「痛い」「疲れる」。なんで単に暗闇で画面を見ているだけの観客にそんな感覚をもたらすことができるのか。優れた映画にはそういう芸当が可能なんだ、くらいのことしか言いようがない。シンプルを装った計算とあざとさ、言えば言えよう。しかし、それにしたってすばらしい。あ、まだ夜中だというのに魚市場で働いているから出勤しなくちゃいけないたから君のお父さんが暗い台所でじっと煙草をふかすシーン(冒頭と末尾)のすばらしさにも触れねば。
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