yoshi

ブラッド・スローンのyoshiのネタバレレビュー・内容・結末

ブラッド・スローン(2016年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

私事だが、3月から単身赴任をして5ヶ月が経とうとしている。
いかに今まで妻に甘えていたかを実感する毎日だ。正直な話、仕事が終わって疲れた上に、料理や洗濯といった家事全般を全て自分でやるのが大変だ。はっきり言って面倒臭い。
(しかし、職場には、さらに子育てを抱えて頑張っているシングル・マザーの方もいるので、声高には言えるはずもない。)
料理を作るのが面倒な上に、妻子の住む家の家賃と単身アパートの家賃も払わなくててはならないので、節約を強いられる。
その上、近くに外食産業もないので、この5ヶ月でなんと7キロも痩せた。

自分では腹回りの脂肪がなくなって喜んでいるのだが、目に見えて痩せてきているようで、職場のママさん方や奥様方に心配される有様。

今まで育ち盛りの高校生の息子と同じ食事をしていたのを止めたのだから無理もない。
妻が体重計を私に持たせた意味は、健康管理に他ならない。
ちなみに妻と息子が住む街まで、片道約200㎞ある。
「一泊するだけなら、余計に疲れるだけだから来ないで。」という妻の言葉は彼女なりの優しさだと思いたい。

現在、住んでいる単身・独身向けの1Kアパートは、ホテルのシングルほどの広さ。
これまで家族4人の生活のため借りていた借家の広さに比べたら、ここはまるで監獄の独房である。

…という訳で監獄を舞台にした映画の話である。

何かしらこの監獄のような生活を乗り切るヒント、または共感できる話を。と思い、
あまり期待はせずに本作「ブラッド・スローン」を見たのだが、期待以上の出来であり、今の私にジャストフィットだった❗️
いやはや思いのほか、泣かされてしまった。

(脳みそ筋肉のような男たちが並ぶ、宣材写真は誤解を呼びますね。)

内容を端的に書くと、悪に染まってでも妻子は守る、真面目な男のハードボイルドな話である。

金融関係の仕事をしている裕福な男が、妻と友人夫婦と食事をした帰りに、自分のミスで交通事故を起こしてまう。
友人夫婦の旦那が死亡。
彼は過失致死で刑務所送りになる。
たった一つの大きな過失が、今後の彼の人生をあらぬ方向へ導くのだ。

交通事故は、いつ誰が起こしてもおかしくない過失である。決して他人事ではない。
刑務所送りは極端な話だが、刑務所送りを業務上の過失(仕事上のミス)による左遷と考えると笑えない話だ。

(誤解の無いように記すが、私は左遷ではなく、単なる命令転勤に伴う単身赴任です。)

裁判をやっても負けることを知り、罪を認めれば刑期が短くなることから、刑務所に入る決心を固めるジェイコブ。

(家族と離れる期間が短いに越したことはない。家族を持つ者としてその気持ちはよく分かる。子どもの反抗期や進路、妻の心変わり…心配することは山ほどある。
その上刑務所となれば、夫の収入はなく、生活に困窮するのだから、さらに家族が心配になるのは当然。)

弱みを見せればリンチされ、レイプされ、下手をすれば殺される刑務所の弱肉強食の世界。
「妻子に生きて会うまでは死ねない」と、無情な殺し合いの抗争が渦巻く中で生き抜くため、自らの肉体を鍛え上げ、囚人同士の争いに立ち向かっていく主人公。

(慣れない土地環境や家事ごときで不平不満を言っている自分をここで反省しました…。家族を養うためには頑張らないと。自分はまだ命の危険がない分、幸せだと素直に思いました。)

そしてその頑張りと根性を認められ、白人ギャング集団の仲間に認められる。

金融関係者なのでマネー(金)という有難くもない通り名まで頂戴する。
刑務所内の派閥争いに巻き込まれ、本意ではないが、悪事に加担してでも必死に生きようとするジェイコブ。

(慣れない土地での新生活を送る社会人ならば、派閥争いや汚れ仕事も申しつけられることもあり、慣れ合いの職場環境にドップリ染まることもあるだろう。
私は歳をとっているので、ジェイコブのように心までは染まらないように気をつけたいと思った。)

1年数ヶ月で出られるはずが、どんどん刑期が伸び、気づけば10年以上刑務所にいたジェイコブ。
(業績次第では、私は家族の元に戻れるのですが、主人公は全く逆の負の連鎖。同情を禁じ得ない…)

昔は良き社会人、良き夫、良き父として幸福な生活を送っていたのだが、容姿も肉体も変貌していく。

(実際に刑務所にいた50 Centの例もありますが、アメリカで、なぜムショ帰りの人が総合格闘技選手並みにムキムキなのか、この映画で分かった気がします。
身を守るためだけでなく、身体を鍛える運動の規則があるのですね。モチベーションの問題ではなく、強制的で規則的だったというのが目からウロコ。)

順調に刑務所内の地位を上げていったものの、いざ出所という段階になると、刑務所の元締めビーストが犯罪計画の実行を強要してきた。

「出所したら終わりと思ったか?死ぬまで尽くせ!」と出所後の犯罪の加担を強要される。断れば、家族が殺されるのだ。

ジェイコブが刑務所から仮出所すると、家族ではなく刑務所仲間たちが出迎える。

しばらくしてジェイコブは口座に入っているお金を渡すため、妻ケイトに会いに行く。
前科があり、なおも犯罪に加担しなくてはならない主人公。カタギに戻れない自分を忘れてくれ、この金でやり直してくれ、手切れ金か慰謝料のように金を差し出すのが悲しい。

だが、ケイトはお金を受け取るのを拒む。
涙を流しながら、長年連絡をくれなかったジェイコブを責めた。
(お金じゃないのよ。とまだ主人公を愛している妻の想いが泣ける。)

ジェイコブはお金を渡す手続きが終われば二度と会うつもりがないことを告げ、席を立った。
(離婚して自分から離れれば、命の危険はなくなると、夫としての想いにも泣ける。)

元刑務所仲間たちと兵器の密輸をすべく、準備して行くが、警察もその計画に感づいていく。

途中、ジェイコブが暮らすモーテルに、ケイトと息子が訪ねてくる。
成長した息子の姿を見て、ジェイコブは喜びと驚きで声を詰まらせる。
息子は父に手を差し伸べようとするが(迷惑が掛かるから)もう来るなとジェイコブは拒絶する。
ジェイコブは閉めたドアの内側で、堪えきれずに涙を流す。
せっかくシャバに(会えるほど近くに)戻れたのに、もう会えない。
会わないことが、縁を切ることが家族を守ることになる。

これは泣けます❗️泣くしかない❗️

(単身赴任中に、酒やら浮気やら犯罪やら、自分の過失で、家族に会えなくなることがないよう、自分に言い聞かせる私。)

これを機に、刑務所仲間に従順に従うフリをして、ジェイコブは家族を守るため、遠大な計画を実行に移していく。

策を弄して、あえて密輸を失敗させる。
自分は逮捕され、再び刑務所に収監される。
密輸の失敗を問いただそうと面会に呼び出すことを予測して、近づいてビーストを殺し、ジェイコブは刑務所の頂点に立つのである。

主人公はれっきとしたエリートだったので、頭もよければ空気も読める。
その頭脳をフル回転させて周りの環境に適応し、かつ頑張って悪事を働けば働くほど刑期が伸びる、家族が危険に晒させる無限地獄を脱出しようとした結果が、意外な形で幕を閉じる。

そこまでしないと家族は守れない❗️

愛する妻子の命を守るために(悪の道であろうとも)懸命に働く、必死で生きる男の覚悟に感動したのでした。

ジェイコブは息子からの手紙を受け取る。そこには父を恨んでいないこと、母を守ることが書かれていた。
ジェイコブは涙を浮かべながら壁に貼ってある家族の写真を眺めた。

私も、単身赴任後に妻と息子たちから贈られた手紙と誕生日プレゼントに涙しました。壁には同じように家族の写真が貼ってあります…。

主人公と違い、私は連休には家族に会いに行けるのです。強くならねばと心に誓いを立てました。

監獄の中の主人公が、単身赴任中である自分と重なり、個人的にはガツンと響いたのですが、父親や夫にある家庭を持つ男性諸氏には何かしら響くモノがあるはず。

家庭を持たずとも、カタギの(世に認められる)仕事だろうと、ムショの中の悪事(汚れ仕事)だろうと、真面目に懸命にやった人間が生き残れるのだ!という人生において大事なことを教えてくれます。

キャストの起用も、アメリカのTV界で頑張ってきた俳優たちというのが良い。
「ゲーム・オブ・スローンズ」のニコライ・コスター=ワルドー、
「ウォーキング・デッド」のジョン・バーンサル、
「バーン・ノーティス元スパイの逆襲」のジェフリー・ドノヴァンなど…
TVドラマでの活躍が認められ、映画界に進出して良い役を掴めるようになってきた俳優さんたちばかり。
映画の成り上がりのストーリーと俳優さんの地位向上がシンクロしているのです。

隠し持った刃物でサクサク刺すという戦闘描写、暴動の暴力描写もなかなかリアル。

本物のアメリカの刑務所ってこうだといったトリビア的な目線で見るのも面白い。
(何でもかんでも肛門に隠すのは、さすがに引いてしまうが…)

刑務所の中には、何故か当然のようにタトゥーマシンがあり、囚人たちは自分たちの人種やチーム名にちなんだ文句を全身に入れる。
(「ケープ・フィアー」のデニーロを思い出しました。古いかな?)

日本のヤクザと同様、囚人たちの刺青には、もうカタギには戻れない覚悟を感じるのだが、単なるファッションや虚勢を張るために身体をキャンバスの代わりとしている覚悟のない日本の若者には、ぜひこの刑務所に入ってもらいたい。(余計なお世話だが。)

主人公は周りに同化して生き残る為に、仕方なく刺青を入れる。
それが主人公の生き残る覚悟として、視覚的にも分かりやすい。

最初はカタギだったゆえ、まっさらだったジェイコブの体にもだんだんとタトゥーが入れられ、背中には白人ギャングの証明「WHITE PRIDE」の文字が、胸には妻と息子の名前(これも泣ける。)その他全身に悪そうなモチーフが彫られていく。

刺青なので一気には完成させることができず、ちょっとずつ絵柄が仕上がっていくのだが、その仕上がり具合がジェイコブがギャングとして完成されていく長い月日を表しているのが物悲しい。

余談ですが、私が作品中、最もテンションが上がったのは、刑務所内での囚人のトレーニングの描写。
今までの映画で描かれた刑務所でのトレーニングでは、バーベルなどのウェイトが置いてあって「みんなで順番にやってます」的なものが多かったのだが、いわゆる自重での筋トレをここまで盛り込んだ刑務所映画ってなかったのでは?

仮出所したジェイコブがモーテルの自室に入った途端、バーピージャンプを始めたのも、もはや健康と体力維持のための習慣として刷り込まれている感があり、その後も屋外の日光が当たる狭い檻での号令に合わせた腕立てや、同じ房の囚人を肩車した状態でのスクワットなどが繰り広げられる。

狭い場所でも自重でこれだけできるのは感動。痩せて皮がたるんだ自分の身体に、ネットで検索して、無理のない程度に早速取り入れたが、一週間ほどで絶大な効果があることが分かった。
体脂肪率が25%から18%になり、内臓脂肪も減った。Tシャツも少しキツくなり、胸筋もついた気がする。
ぜひ続けて、妻と子どもを驚かせたい。笑。

刑務所の中でも外でも、主人公の想いは終始一貫して変わらない。
元の生活には戻れなかったとしても、彼の行動原理はすべてが愛する家族のためのものだった。
大いに見習いたい。

「パピヨン」、「アルカトラズからの脱出」、「告発」など監獄モノには人間の尊厳を訴える名作も多いのですが…

個人的に現在の自分と、境遇や心境が一致する部分が多かったので、この手の作品としては評価高めとします。
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