ミヤザキタケル

タクシー運転⼿ 〜約束は海を越えて〜のミヤザキタケルのレビュー・感想・評価

4.3
タクシー運転手 約束は海を越えて
4/21公開ですが 一足早くレビュー。

多くの死傷者を出した“光州事件”を描いた実話ベースの物語。
1980年5月 戒厳令下の韓国
11歳の娘と2人で暮らすソウルの平凡なタクシー運転手 キム・マンソプ(ソン・ガンホ)は、外国人客を光州まで送り届ければ10万ウォンを支払うという話を聞きつけドイツ人記者 ピーター(トーマス・クレッチマン)を乗せる。
ピーターの目的を把握せぬまま検問を潜り抜け光州に辿り着くも、真実を捻じ曲げる政府と容赦無く虐げられる市民の姿に困惑するマンソプ。
悲惨な現状を世界へ届けるべくカメラを回し続けるピーターであったが、撮影する姿を目撃され政府に目を付けられてしまうのであった。
光州事件の真実を世に解き放った2人の男の勇姿を通し、善悪どちらにでも転じてしまう人の心を描いた作品だ。

世界のどこかで戦争が起こっていようとも、ぼくらはいつも通り学校や会社へ通う
世界のどこかで飢えに苦しむ子どもがいようとも、いつもと変わらず食事をするし嫌いな物があれば残してしまう
世界のどこかで災害が起ころうとも、デートをするし飲みにも行くし映画館にも行く
己に火の粉が降りかからぬ内は、知らぬ存ぜぬがまかり通る内は、どんなことでも他人事だと割り切り目を瞑ったまま生きていられる

ぼくは今作に出会うまで光州事件のことを知らなかった
学生時代に習ったのかもしれないが、これっぽっちも覚えちゃいない
そんな人であっても、何の志も持たぬまま光州へ足を踏み入れてしまうマンソプがいるから入り込める
あなたやぼくと同じくフラットな視点で事件に直面し、目を疑うような光景に揺れ動いていく彼だからこそ寄り添える
マンソプという導き手がいてくれるから、他人事が自分事へと変わっていく過程を噛み締められる。

冒頭、タクシーの車内で陽気に歌うマンソプ
外で何が起きていようと御構い無し
車内というテリトリーにおいて、彼を脅かすモノは何も無い
が、一歩外に出れば思い通りにならないことの連続
それでも、円の内側で起こる出来事に関しては大抵何とかなる
ツケは溜まるが先延ばしにもできるし、取り敢えずは変わらぬ毎日を生きていける

人は何かしらのキッカケが訪れない限り、行動を起こせない
不意の手痛い一撃を浴びなければ、重要なことには気が付けない
そして、一度円の外側を知ってしまえば知らなかった頃には戻れない
陽気に歌ってなどいられない
円の外側からやってきたピーターをタクシーに乗せた時点で彼のテリトリーは崩壊し、無知でいることを許されなくなった
彼にとっての“キッカケ”こそピーターであった。

人に言われるがまま行動していれば苦労も少ない
他人に決断を委ねていればラクだし、責任も問われない
昇進や賞賛の類いとは無縁になるが、平穏無事な毎日が約束されているのであればそれもアリだと思えてしまう
そんなぬるま湯に浸かっているような連中には、何を言っても通じない
手遅れになってから後悔しないと、ブン殴ってでも気付かせてくれる誰かがいないと容易には抜け出せない

金のため、娘のために生きてきたマンソプ
他人事だと割り切るか、自分事だと受け入れるか
目を背けることのできない諸問題を前に思い悩む
見過ごしたままでも生きていられるが、知ってしまった以上いつかは決断を迫られる
取り返しがつかなくなる前に行動を起こすのか、取り返しがつかなくなってから行動を起こすのか
選択次第で人生は大きく変わる
その岐路に彼は立つ。

皆自分の身の回りのことで精一杯
できることなら余計な重荷など背負いたくはない
自分の人生、自分のことを一番に考えるのが当たり前
だけど、皆が自分のことばかりを気にかける世界に未来は無い
他者を思いやる気持ちがなければ、相互理解など図れない
誰もが分かり合える世の中なんて永久に訪れない

相手を知れば、相手の人となりに触れることができれば誤解など生じない
円の外側にいる人達を内側に引き込めれば、自ずと円の大きさは広がっていく
円の内側にあったモノの大切さだって見えてくる
やがて内側と外側の境界線が無くなり、一つの円が形成される
円の外側に立たされてこそ、人の真価が問われるのだと思う。

大きなキッカケが訪れるのを待つ位なら、自らの手で掴み取りにいった方が良い
待っていたって訪れるとも限らない
10円からの募金でも良い
笑顔で人に挨拶するだけでも良い
キッカケの種はどこにでも宿っている
小さな一歩はやがて大きな一歩にだってなっていく
自分で書いていて綺麗事に思えるけれど、ぼくらは世界を変えられる
変えようとしていないだけで、変えられるだけの力は持っている

無自覚故の無知もタチが悪いが、決して罪では無い
本当にタチが悪いのは、自覚しているにも関わらず傍観を決め込んでいる者
果たして自分はどちらだろう
描かれていたのは1980年の出来事だけど、今この時も、そしてこれから先の時代であっても大事なことを描いていた
今を変えられるのは、今を生きるぼく達だけ
人の在り方を示し、行動を起こすための勇気を与えてくれる作品です。

ぜひ劇場でご覧ください。

青春★★★★
恋 ★
エロ★
サスペンス★★★★
ファンタジー★★★
総合評価:A