jinhee

タクシー運転⼿ 〜約束は海を越えて〜のjinheeのレビュー・感想・評価

4.5
光州事件を基にした映画。
設定は映画的に脚色しているが、実在の人物を描いている。

自国に何も疑問を持たず生きていたタクシー運転手のキム・マンソプが、ドイツ人記者を光州まで乗せた事で自分の知らない現実を突きつけられる。
実話ベースなので事の顛末はわかっているのだが、ソウルで平和に生きてきたマンソプが、命を賭けるまでに至る心理描写が巧みだった。マンソプの態度も表情も時間とともにどんどん変わっていく。ここはさすがのソン・ガンホだ。
映像的にもソウルと光州の対比、光州と順天の町の対比に、観る側もギリギリと胸が締め付けられていく。
(当時と現代の対比も印象的)
人が人として扱われない事件は観ていて辛いシーンが多い。けれど、そこかしこに良く知る温度の生活感があり、そこには希望もあった。
特にユ・ヘジン演じる光州のタクシー運転手やその仲間たちの格好良さたるや。
彼等は、自分たちを正義などと大仰に言わない。ただ、人として当たり前の事を当たり前に行う。困っている人は助ける、怪我人は病院に運ぶ。
この状況下で自分なら正しく生きられるだろうか。運転手らのラストシーンは涙無しに見られない。

光州事件が起きたのは1980年。まだつい最近の話だ。この事件は2007年にも「光州5・18」で描かれているし、99年の「ペパーミントキャンディ」でも主人公に大きな影響を与えた事件として扱われている。
全面通行止め・電話も報道も規制もした民間人に対する虐殺事件を、この速度で映画に出来るのが韓国の逞しさだと改めて思う。
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