ShinMakita

タクシー運転⼿ 〜約束は海を越えて〜のShinMakitaのレビュー・感想・評価

2.0
1980年春の韓国…全斗煥による軍部政権に反発し、各地で民主化運動が高まりつつある頃、光州では学生や反政府主義者らのデモが暴徒と化し、軍の兵士に死傷者が出ていると報道されていた。そんなニュースなど特に気にせず、戒厳下だし学生デモで道塞がるしで、こちとら商売あがったりだよ!とキレているおっさんがいた。我らがソン・ガンホ兄貴である。ガンホ兄貴の商売は、ソウルのタクシー運転手。妻を亡くし、幼い娘を1人で育てる苦労人だ。そんな兄貴が、昼飯を食ってるときに耳にした「美味しい話」。それは、国際劇場前にやってくる外国人を乗せて光州に連れていけば10万ウォンになるという仕事だ。家賃滞納でカネが欲しいガンホ兄貴は、早速待ち合わせ場所に出向いて、その外人をボロタクシーに押し込んだ。外人の名はユルゲン・ヒンツペーター、在日ドイツ人記者。光州の真実を取材するため、極秘裏に韓国入りしたのだった。そうとは知らないガンホ兄貴は、くだらねえデモを見るために深刻な顔してわざわざ来るとは酔狂な野郎だなぁと呆れながらも光州へとクルマを走らせるが、まさか光州で起きていることが単なるデモではなく、軍による一方的な暴力と虐殺であったとは、まだ知る由もなかったのである。



「タクシー運転手」。ハリウッド産のナチものやマーベル映画でも見かけるトーマス・クレッチマンと、ガンホ兄貴ががっつり共演の韓国映画です。


以下、ネタバレは海を越えて。


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「タクシー運転手」という、およそ映画のタイトルっぽくない題名が韓国っぽいかなあ。「taxi」じゃカーチェイス映画になっちゃうし、「タクシードライバー」じゃガンホ兄貴がモヒカンになっちゃいますからね。確かに前半の人情喜劇風なストーリー展開からは「タクシー運転手」というのがしっくり来ます。中盤、ユ・へジンの家でメシ食った後の突然の銃声から全く別の映画のようにどシリアスになってきて面食らいますが、それこそがこの映画の味。冒頭のガンホ兄貴が運転しながら1人カラオケに興じるというシーンが中盤にも出てきますが、二回目は意味も雰囲気も全く異なるという対比が見事です。ガンホ兄貴がおにぎりを食べるシーンも二回ありますが、二回目のおにぎりの意味も、胸にズシンとくるものがありますよ。この映画は食事映画とも言える側面もあって、メシの時に相手と打ち解けたり理解しあったりするってところが多いんですよ。もやしスープを食べる父子、キムチ料理を囲む皆さん…とかね。いい雰囲気で食卓を囲む映画に悪いものは無いんです(笑)。

唯一醒めてしまった場面は、私服軍人部隊に追われるガンホタクシーを、唐突に現れた光州タクシー軍団が助けに現れるところ。あまりにマンガ的でしらけちゃったんだよなぁ。それ以外は、のめり込んでちゃんと涙腺も刺激されましたけどね。「国家による非人道的弾圧の事実を知らなかった主人公が、やがて真実を目の当たりにして行動を起こす」というキャラは「弁護人」ともカブリますが、ガンホ兄貴にはピタリとハマるので許せます。

戦場記者とガイド(助手)の友情というアウトラインからは、ちょっと「キリングフィールド」も連想。最後は再会させてあげたかったなあ…
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