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タクシー運転⼿ 〜約束は海を越えて〜のスズキのレビュー・感想・評価

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舞台は1980年の韓国。外国人記者を乗せ言われるがまま光州へと向かったタクシー運転手はそこで全く報道されていなかった軍による市民虐殺を目にする。軍に追われながら運転手が記者を空港まで送りその事実が世界中に知れ渡るまで。

国家による国民の虐殺という悲劇をエンタメ要素を盛り込みながら飽きさせずに見せていくところや、小市民的で平凡なタクシー運転手を主人公にしたことで今この映画を見る現代の観客が感じる古さをタイムスリップ的に上手く演出したところ、前半をコミカルな展開で弛緩させ後半の虐殺シーンで一気に緊張感を高めていく構成、車や靴という「運び」のメタファーが何度も出てくる演出、こういう国の恥部が映画として作られ、しかも1200万人も動員があるという韓国の文化度の高さには敬服するしかない。そういう意味では本当に貴重でよく出来た映画。

本来国民を守るはずの軍隊が市民に向けて銃を撃つという描写は理解ができなくて衝撃が大きい。光州事件を全く知らなかったけど大変興味が湧いて色々と調べるきっかけになりました。

国民を虐殺するという軍側の背景をバッサリとカットしたことで善悪が簡単に分かれてしまったこと、タクシー運転手の葛藤が今ひとつあっさりし過ぎていてそこの成長描写が弱かったことがちょっともったいなく感じたけど、その2点を除けば大変な傑作でした!
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