Aya

タクシー運転⼿ 〜約束は海を越えて〜のAyaのレビュー・感想・評価

3.9
日帝映画流行りの韓国映画界、なぜ今光州事件?と思ったら「あいつの声」ってことか!

タクシー運転士、カッコええなあ!!

ちょっと泣きすぎて肺が痛い・・・。

↓映画が公開されてどうなったか、知りたい方は一番下へ↓

コメディかと思ったらサスペンスでもあり、史実劇で人情モノでもあり、バディでもあり、ビルドゥングスロマンでもあり、アクション映画でもある。

個人的にそれぞれの登場人物の哲学と哲学がぶつかる瞬間がたまらないですね。
いい時も悪い時も。

お互い譲れない一線、守らなければいけないものは人それぞれで。
その思い入れが原因で喧嘩したり、合致したり、思いを伝染させたり、とドラマが生まれるのですが、もう随所随所でスパークしてると思った。
あの検問の軍人だっていろんな思いがあったはず!

日本に住んでるドイツ人記者よりソウルに住んでるタクシー運転士の方が光州で何が起こってるかわかってなかったなんて・・・。

光州事件についてはもういいですよね?
この映画は5月18日の勃発時の話ではなく、5月20日にピーターを乗せてソウルをスタートし、5月21日の全羅南道旧道庁前広場の市民への一斉射撃を目撃して、と重点が置かれています。
ぶっちゃけこのままあと1週間居ちゃったら光州民の見たくない姿を見ていたかもしれない。

明確な答えは出てない事件ですが、このテーマを映像化する事自体が10年、20年古いとすら思ってました。
「ラスト・プリンセス」評にも書いた通り、今、韓国って日帝映画がめちゃ流行ってるんですよね。

だから同時期に公開されたビックバジェット映画リュ・スンワン監督作の「軍艦島」が2017年初の1000万人突破なるか?!と言われていて、蓋を開けたら「軍艦島」の方が大コケして。
(600万人動員して大コケと言われる韓国映画界恐ろしい)

しかしなんとまぁソン・ガンホがニッコニコに笑ってる一見ミニマムそうなこちらが1200万人とな。
見てみたら全然ミニマムじゃねーじゃん!!

チャン・フンとソン・ガンホってだけで安定物件なのに嫌が応にも高まる期待。

結果、大号泣だったわけで。

行かれる方、ぜひ吸水性の高いタオル用意したほうがいいです。

最初の道庁前広場での市民と軍との攻防をビルの上から見てショックを受けるところ。
地元記者、そして通訳学生、ピーターとみんな驚きを隠せない状況なのですが、でもこのカットもまだ遠目に見てるのでそんなに入り込んで見せない。

下に降りていくけど、催涙弾にまかれます。
やっぱり催涙弾には歯磨き粉ですよね!ちなみにソン・ガンホのように鼻の下だけでなく、目の下にも塗る、と教えてくれたのは、皮肉にも「光州5.18」という映画でした・・・。

色々逃げて来てたけど、まさか・・・な道庁前広場での一斉射撃シーン。
いやーいろんなところが凄かったー!

やっとここで、軍と対する人々がどんな目に遭っているか間近で、長尺で、且つ軍側もプロフェッショナルに丁寧に見せられる。
くどいくらいに何発も、何発も確実に目標に向かって放たれる弾が、確実にターゲットの身体に命中してゆきます・・・。
学生だけでも、運動家だけでもなく、女性やお年寄りも容赦なく撃ち抜く。

韓国人男性はほぼ全員が銃を扱えるのでエキストラの構えが本気で、確実に殺す、感じが凄い伝わってくる。
そしてこのシーンだけスローのカットが入ったり、弾が体に命中するシーンも含め時間をかけてじっくり見せられる。

えっ・・・なんで・・・撃ってんの??

みんな倒れてんじゃん・・・。

助けに、行けない・・・。

この光景を目の当たりにした、何も知らずに自分の生活でいっぱいいっぱいのソウルのタクシー運転士の意を決した時と、気さくで人のいい光州のタクシー運転士たちが意を決した時、同じ哲学がぶつかります。

目の前の人を助けないと!!

哲学と哲学がぶつかってスパーク!!

そしてタクシー運転士アジョシたちの行動よ・・・カッコいい(T_T)
ロマン!!ロマンティックだよ!!
男泣きだよ!!

何気に助けた人を車のホイルのところに隠しておくのも素晴らしい・・・。
ホイル部分は車の部位でも弾を貫通しにくいので銃撃戦の時にはここに隠れますよね。
しかもソン・ガンホ演じるキム運転士はサウジで働いた経験があるということはそんな知識あるはずなんですよ!!

一瞬逃げよ!となったシーンも(当たり前だよね。完全に主人公巻き込まれ型やもん)やっぱり心残りがあって、可愛い娘の靴を見ながら、いつも聞いてる曲を口ずさみながら、なんとか現実と理想の間で自分に折り合いをつけようとするとことかほんと!ほんとほんと!!

お父さん、水曜日は娘と約束あるもん!このままソウルに戻って借金返して、普通に暮らして何も見てない聞いてないで生きていこう。
ちゃんと金ももらったし・・・でも!!

光州では女も若者もタクシー運転士も戦っている。
そしてその情報は光州の外には一切出ない。
それは彼らにとって、光州以外に住む韓国国民にとってどういうことか?
ソン・ガンホ頑張ってるけど、結局見て見ぬ振りして保身に走ってるだけじゃん!

とかは、もう考えに考えまくってると思うんですよ。
その上で娘のことを考えることで平静を保とうとして・・・でも父親としてのアッパはダメかも。でも人間としてのアッパは、人として、国民として成すべき事が、彼しかできないことがあるはず・・・。

成長してる!!!
彼の中の哲学が揺らぐあのくだりは最高にエモーショナルで、かけているメガネを外してしまうほど大号泣でした。
(メガネないと見えないw)

ピーターが最初は後ろに座ってるのに、いつのまにか自然に助手席に座るのもわかりやすく2人の距離が縮まってバディ感出ますよね・・・。
(ちなみに韓国は助手席に客が乗るのわりと普通です)

そしてクライマックスの光州脱出カーチェイスですね!!!
もう一度言います。

タクシー運転士カッコいい!!

わりと序盤からも示されるのですが、彼らの、てか光州の「タクシー運転士」哲学カッコいい・・・自分を犠牲にしても仲間を助けるのは当たり前。外から来たやつでも一緒。同じタクシー運転士a.k.a仲間だ!!

ってかなんでそんないいタイミングで来るのwとは言いたいw
結構がっつり山道でのカーチェイスシーンを見せられたのに、その儚げなあばよ感。
緑に囲まれた道で、緑のタクシーは・・・。
この辺はカラーコーディネートがいいと思います。
ソン・ガンホの衣装も緑のタクシーに合ってますしいいです。

今回ソン・ガンホだいぶ痩せてますね!
アクションシーンもあるからかしら?
ピーターと同じくらいの体型でバディ感出したかったのかな?なんて思ったり。

フード理論としても完璧。
家で食べるもやし汁はサングオモニが作ってんだよ!
金を借りようとしてサングアボジとどっちが食事代を出すかで焼肉?(豚に見えたけど)を貪るシーン。
デモを撮影しに来たと、光州の人に友好的に受け入れられ、もらったおにぎり。
ユ・へジンさんの質素なお家でご馳走になった夕食。いや、そこそこ豪華でしたし!!
そして食堂でサービスで出されるおにぎり・・・そりゃそうなっちゃうよねー!!

全部美味しそうでしたし、美味しそうに食べてて超いい!と思った。

何気に大家さんもいいじゃないですか旦那さん(コ・チャンソクアジョシw )の方ボヤボヤしてて友達みたいだから、対比で奥さんの方感じ悪く見えるけど、ご飯も当たり前のように作ってくれてるし、ちゃんと娘の世話もしてくれてる。
だから、あんなに娘に会いたい!約束を守りたい!でもあそこなら安心して預けられたからでは?

チャン・フン、ギドク組出身のわりにどちらかと言うとキム・ジウン寄りのロマンチストな気がする。


でも気になったのはやっぱり運転士の名前、ですよね。
たぶん、ソン・ガンホが自己紹介をするシーンてなかったと思うんですけど、劇中ピーターはずっとソン・ガンホのことを「ミスターキム」と呼んでるんですよ。
ちょっとラストの大事な部分に触れそうになりますが、たぶんこのドイツ人のおっさん、聞いたけど下の名前忘れたんじゃないの?w

皆さんぜひ今一緒にかかっているキム・スヒョンくんの「リアル」とセットで見てもらえると、2017年韓国で一番観客を動員した今作と2017年一番評判の悪かった作品がセットで見れますよ!

↓映画が公開されてどうなったか?↓

※この映画のキモの部分のネタバレに触れております。

この映画が終わり、エンドロールの手前でもうおじいちゃんになったピーターことユルゲン・ヒンツペーターが呼びかけます。

「キム・サボクさん(ソン・ガンホがテキトーに書いた名前)あなたに会いたい。あなたのタクシーから、今の韓国の姿を見たい。どうか、この映画を見て名乗り出てくれれば」

と。
この映画は本国で2017年8月2日に公開されましたが、ヒンツペーター氏は2016年に亡くなられました・・・。
韓国公開時には奥様と現大韓民国が一緒に見たそうな。

で、なんと!

名乗り出た人がいました!

息子です!
娘ではなく!!

ピーターとミスターキム運転士の2ショット写真を公開し、肝心の「サボク」氏は事件の4年後に亡くなったと・・・。
まあどこまで本当なのかわかりませんが。

だからこのタイミングで作ったのね!
時効が間近に迫った誘拐事件の犯人の肉声テープを映画のラストに使った「あいつの声」と同じ方法論で作られた模様。


日本語字幕:本田 恵子
Aya

Aya