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タクシー運転⼿ 〜約束は海を越えて〜のgarura07のレビュー・感想・評価

4.5
ソン・ガンホが演じる主人公マンソプはがさつで教養があるとは言えない、だが愛嬌と人情味のある、どこにでもいる平凡なタクシー運転手だ。一方トーマス・クレッチマン演じるピーターは知性が溢れ、問題意識と使命感を持つ記者だ。そんな共通点のない二人の間には言語の壁以上のディスコミュニケーションが立ちはだかる。ディスコミュニケーションは同じ韓国人同士であっても存在する。ソウル在住のマンソプと光州在住のファン(ユ・ヘジン)たちでは話が噛み合わない。何せマンソプは学生たちのデモの意図を理解できなかった人物だ。そして目の前に広がるのは軍に弾圧されるデモ隊の地獄絵図。そんな絶望的な状況に放り込まれた(?)マンソプの“覚醒”こそ本作の見所だ。 光州の人々との交流や絶望的な状況を目の前に突きつけられ、戸惑い、挫折しながら変化していく主人公をソン・ガンホが「殺人の追憶」を彷彿させる名演技で表現する。ピーターも記者としての正義感と悲惨な現実に困惑する人間的な一面を見せ、平板なキャラクターにならず映画に奥行きを与えている。またユ・ヘジンをはじめとする光州のタクシー運転手たちも味のある面々も見所の一つ。彼らのような存在が今日の韓国の民主主義の礎となり、光州の事件を風化させてはならないという事に説得力と感慨を持たせている。
またこの映画を支える確かな演出力にも触れておかなければならない。牧歌的な雰囲気と後の惨劇をさり気なく予感させる導入部や見事な伏線回収、サスペンスの盛り上げ方、反復演出、タクシーの配色一つにも拘った画作り、これら全てが高いレベルで演出されており、映画に説得力をもたらしている。予備知識無しで観賞しても十分に訴えかける力が本作にはあるし、「韓国は住みやすい国」という何気なさの中に危うさを含むセリフは決して他国の話だけではないかも知れない。
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