140字プロレス鶴見辰吾ジラ

タクシー運転⼿ 〜約束は海を越えて〜の140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

4.4
GW映画12番勝負”第5戦”
※GW中に800レビューに届くのか!?

”メッセージ”

韓国映画からまた傑作が生まれた。

韓国映画の魅力は何か?と聞かれたら
一つ目に「容赦のなさ」
二つ目に「振れ幅」
と答えたい。

今作は80年代の韓国で実際に起きた「光州事件」を題材にした実話ベースのフィクション映画である。昨今の「Based on the true story」モノではあるが、そこに韓国映画の魅力である「容赦のなさ」と「振れ幅」そして今回は、実話ベースということと”映画”というメッセージ発信媒体の特性を最大限生かした演出が最後の最後で繰り出され、それが何よりトータルパッケージでの圧巻力を大きくネクストレベルへと引き上げている。

上記に書いた「容赦」のなさは言わずもがな、韓国映画のバイオレンス性と汚さにある。今回の「光州事件」は、韓国の軍隊があろうことか独裁政権下において自由を訴える国民に銃を向けてしまったことにある。韓国の歴史の中での恥にあたるこの事件を正面からとらえつつ、そのエグさと真実性をエンターテイメントという土俵で生かしていることは徹底性ある映画という媒体性への拘りに他ならない。昨年、日本でも話題沸騰となった「新感染 ファイナルエクスプレス」を見ておくと、情報規制がもろくもSNSに砕かれていく様に今作の影が着実にあり合点が行き、報道規制含めたメディアの暗黒面が軋みを上げて成長する韓国そのものと呼応している。

そして「振れ幅」においては現在公開中の「アベンジャーズ:インフィニティ・ウォー」もしのぐ勢いである。それは何かと言うと、単純にコメディックなギャグへの振りから、いっさいの笑いが排除されるクライマックスまでの「振れ幅」である。前半部はソン・ガンホのギャグ漫画の主人公のような出で立ちとキャラの押し出しで笑いを取り、ことが進む外国人ジャーナリストとの遭遇で生まれる韓国語と英語のディスコミニュケーションをコント調で描き、ほのぼのとした珍道中として演出している。無論、光州に入ってからも軍隊との衝突を目の当たりにしバイオレンスシーンが挿入される最中ではあるが、人情味あふれる笑顔の会話や食事シーン(キムチとスープの辛さに悶絶するシーンは最高)で笑いが彩られている。

「ギャグとシリアスのバランスが・・・」

と思いかけたときに響く爆発音で物語は地獄へと変貌する。今年公開のキャスリン・ビグローの「デトロイト」を髣髴とさせるが、今作はスリリングな緊張感をさらに暴力性と容赦のなさで上塗りしていく徹底ぶりを見せる。中盤~クライマックスにかけてはせきを切ったようなバイオレンス描写とエモーショナルな劇伴を含め、映画という重力で押し付けられるような冗長性があるのは否めないが、肉体的・精神的な痛みや疲弊がライドしていき、そしてどうすることのできない悲壮感とまだ絶望してはいけないという希望に縋る感覚を劇中内の登場人物と共有させたのちに訪れる、映画という嘘を最大限に使った名もなき市井の人々の英雄性が胸をひたすらに打つ。前半のコメディ描写が微塵も感じられないまま、ヒューマンドラマの泣かせ演出から振り切ったカーアクションの過剰な付加価値もつけた実話ベースの物語は、「善き人のためのソナタ」のような特別な感情の果てにあるメッセージとなってエンドロールに映し出される。私は最後のこの演出は、「ハドソン川の奇跡」の再会のシーンやピーター・バーグの写真演出とはまた違った、映画という発信媒体の可能性を信じた純然たる想いの一幕を見たと思った。

社会派サスペンスでありアクションエンターテイメントであり、コメディのスパイスも詰め込まれた、一種歪でアンバランスな映画成分の過剰摂取であるが、あらゆる感情を引き出されたこの空間の嘘は真なる気持ちを吐き出していた。