このレビューはネタバレを含みます
滑り込みで観てきました!殆どの劇場では既に公開が終了してますが、どうしても観ておきたくて。
同じ考えの人が多いようで、小さな劇場は立ち見の人がたくさん出る程の盛況ぶりでした。
この映画は、普通の貧乏なタクシー運転手マンソプが突然大事件に巻き込まれていくところが肝です。
彼は何も知らないソウルの一般人です。
何も知らないから、何度も帰ろうとします。死の恐怖を味わったマンソプは、外国人記者ヒンツペーターを現場に置き去りにして娘の為に引き返すことを決意します。
とても理性的な決断です。マンソプには娘がいます。自分がいなきゃ、娘は生きていけないのです。
しかしマンソプは、帰る途中、うどん食いながら他人の話を小耳に挟みました。
真実を知らない人は、この騒動を反社会勢力としてのデモ隊が原因だと考えてしまっている。ニュースではそう言っているからだ。
自分だってそうだった。知らなかったから学生デモをただの迷惑行為だと決めつけて、勉強しろよとたしなめていた。
ただ、自分はひょんなことから真実を知った。お店で噂話をする人達は、以前の自分と一緒だ。
ここでマンソプは真実を正しく伝えることの重要性を実感するのです。
なぜヒンツペーターが命懸けで取材をするのか、なぜデモ隊は彼を歓迎したのか、分かったのです。
なんとかして報道させないと、無かったことにされる。
祖国を救うために戦う人々の命が無駄になる。
軍事政権の引くメディア統制の理不尽を目の当たりにするのです。
これはおれら観客にとっても同様で、すごく怒りを覚えました。
白旗を揚げる青年を撃ち殺した奴、絶対に地獄へ行くでしょう。
光州事件で戦い続けた人々に、そして民主主義を守る市民の正義感を感動的にリアリスティックに描いたこの映画に、敬意を表さざるにはいられません。
この映画がなぜ評判がいいのか分かった気がするのです。観てよかった!
ところで、キム・サボクさんとヒンツペーターさん、やっぱ再会できなかったのかなぁ…再会してほしいなぁ…
ということで、これは、映画観た後にどっかのサイト(https://kban.me/article/7423)で知ったのですが、この映画は韓国で大ヒットして、その映画を観た本人の息子(娘じゃないんかいw)が名乗り出たそうです!
で、そのキム・サボクさんは実はホテル専属タクシーの運転手で、外国人を日常的に顧客にしてたみたいなのよ…
で、英語は流暢らしいのよ…w
つまり、あのトンデモ英語でヒンツペーターを困らせたり、軍隊の検問で通訳兼ドライバーとして謎の以心伝心を見せたり、お互い相手の心のうちを探り合いながらも信頼を深めていくストーリーだったり、全部ウソ⁉︎言葉の壁が巧妙にユーモラスで、謎に微笑ましかったのは全て演出⁉︎
えーこんなの有り?
有り!個人的には大好きです!だって楽しかったもん。こんな仰々しくて笑えて泣けて。
しかも、ズルいのが、本当のストーリーも泣けるんだ。
だって、どっちに転んでも凄いんだよ…英語を話せるハイスペック運ちゃんが、外国人記者乗せて、リスク承知で行ったんでしょ?ヒンツペーターさんがなんで光州に向かうのか、知ってて送迎したんでしょ?え、こっちもヤバいよ!
どっちに転んでも感動不可避という…このヤバさ(語彙力)
でも映画としては貧乏なおっさんドライバーが何も知らないまんま巻き込まれて、光州まで行って真実を知ってしまう。脳裏には娘を常に思いながら、新たな役割を全うさせる。最後は光州タクシー仲間が合流してまさかの壮絶なカーチェイスw
むしろ、(やる気がないのかと思わせるほどに)平凡な映画ポスターや、コメディ風で平和な序盤との対比によって、軍事政権と情報操作の本当の恐ろしさを浮かび上がらせるのです。
ほんと秀逸な脚本です。
別れ際にヒンツペーターに連絡先を求められたマンソプ(キム・サボクさん)は、彼に偽の電話番号を教えています。もしヒンツペーターが日本へ帰る途中で捕まった場合に、次に追手が来るのを防ぐためかもしれません。
無事に任務を遂行したヒンツペーターは表彰され、21世紀の韓国に戻ってきます。彼はあのタクシー運転手との再会を強く望んでいるのです。
一方で、マンソプはまだタクシー運転手をやっています。
学生が忘れていった新聞を読んで、ヒンツペーターの事を知ります。紙面で戦友と再会した彼は、ドイツ人記者に感謝の言葉を呟くと、再び新しいお客さんを乗せて走っていきます…
こうして映画はエンディングを迎えました。残酷な運命に結ばれた2人の人間関係は美しく幕を閉じたのです。
しかし、もう一つのストーリー、つまり真実はこうです。
軍事政権の闇は2人の崇高な人間関係に最後まで毒牙を剥き、キム・サボクさんは1984年に、ヒンツペーターは2016年に、それぞれ再会を果たせぬまま亡くなったのでした。