マツシマ

タクシー運転⼿ 〜約束は海を越えて〜のマツシマのレビュー・感想・評価

3.8
1980年(割と最近じゃねーか)暴走した軍部により閉鎖、情報統制された韓国光州市
情報遮断の向こう側に潜入、報道するためドイツ人ジャーナリスト、ピーターはタクシーを手配する
父子家庭で幼い娘のため、1ウォンでも多く稼ぎたいマンソプは事の重大さを知らずにこの依頼に乗り
封鎖寸前の光州へとタクシーを走らせる


彼国では光州事件として名高い(浅学にして存じ上げませんでした)
史実を元に描かれたフィクション
史実を知らないだけに序盤はうだつのあがらないオジサンと言葉もろくに通じない異邦人との珍道中か…!?といった具合で、これはこれで面白かったし
なんせ画面全体の色がとっても良い
タクシーの黄緑が気持ち良くて、それが画面の中で良く映えて、眺めてるだけで何だか楽しい
韓国の1980年代に育ったワケもない自分でも「なんか懐かしい…」と思わせる風景、きっと恐ろしく作り込まれてるのだと思います
ソン・ガンホのすっとぼけたキャラクターがまた良いんだよな……
結構笑えます

しかし物語も中盤にさしかかると、雰囲気はどんどん変わっていき、主人公が事態の恐ろしさに気付いていくのとシンクロするかのように、切実なトーンになっていきます
画面の色も序盤とはまるで違う
本当にカラーコントロールがとにかく上手い……

最初はお金のため、いけ好かない西洋人ともしぶしぶ付き合う、という主人公が
突き動かされる正義のため、信頼し合った友のため、と変わっていく様もベタだけど、ベタ故にグッときてしまう
史実を元にしている、とはいえそこはやはり映画
タクシーVS軍部のカーチェイスというトンデモアクションなんかも飛び出し、ただの重い映画になっていません
エンタメすることを忘れない姿勢、脱帽だよ……マッコリ奢ります

終盤覚醒してからのソン・ガンホはやはり凄くて
とぼけたオジサンから、使命に燃える一市民へと(スーパーマンじゃないところが良い戦闘力0だし)
表情の変化が素晴らしかったです

ソン・ガンホの名演目当てなところもありましたが、今作は嬉しい誤算があり
とにかく「他のタクシー運転手の顔が良い!!!」
特に1番仲良くなる光州のタクシー運転手
もうね「え?この人1980年のまま時が止まってない?」て思うくらい、謎の「当時の顔」してるんですよ
いやマジで
ほんと最高のモブ顔
天下一品の脇役!!!て顔してるんですよ(めちゃくちゃ褒めています)
キャラクターも本当に力無き一市民って感じで、でもそれが奮い立つからグッとくるんであって

主役はあんただよ!!!
違うけど


史実ではこのドイツ人ジャーナリストの命がけで持ち帰った映像などが世界に報道され、軍部の圧政が暴かれ
ジャーナリストは結局本名も明かさないまま別れたタクシー運転手を
「自らの危険を顧みずタクシーを走らせてくれた彼にもう一度会いたい」
と生涯探したそうですが再会は叶わず…

映画公開後にヒットしたのもあって韓国国内で「一体誰だったんだ!?」と世論が盛り上がった結果、息子さんが名乗り出て、それによると光州事件の数年後には病死されていたとのこと
映画のマンソプとはもちろん違った人物像だったらしく、それはそれでまた議論のタネでありますが、こういう展開になるんだから映画の力ってバカに出来ないものがありますね

しかし韓国映画界ってこういう
「あの時うちの政府マジでヤバかったわ」
という作品撮ってしかも面白いってなんなんだ