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タクシー運転⼿ 〜約束は海を越えて〜のかずシネマのレビュー・感想・評価

3.7
いい作品だった。とても。
ソン・ガンホが泣いている場面でこちらもぐっと来て泣きそうになった。

この作品は朴槿恵前大統領のお父さん、朴正熙が暗殺されたすぐ後の時代の話。
彼女の父親の時代は独裁政権とも呼ばれ、ベトナム戦争へ軍を派遣させ、国内教育では反日イデオロギーも強く打ち出していた。
だが、高度経済成長を遂げ、またその開発で禿山になってしまった土地に植樹が行われる等、必ずしも全てが悪い事ばかりでは無かったと聞く。
その彼が暗殺され、国民には独裁ではない民主化の歓迎ムードが流れる中、クーデターを起こした集団は揉め、逮捕者や死刑判決者まで出し、結局は彼の独裁部分(強固な言論統制)を受け継いでしまった。

…という様な、時代背景は知っておいた方が良い。
ちなみに朴槿恵は父親よりも前に母親までも暗殺されているんだよね。
なんて時代だろうね…。。

当たり前に個人や年齢でも差はあるのだろうが、韓国は地域別でも支持政党・政策にかなり偏りがあり、中でもこの作品のメイン舞台の光州のある全羅道のそれは、かなり強固なものだと聞く。
しかしこの作品で描写された様な歴史があるのなら、それにも非常に納得する。
だってこれ、遠い遠い昔の出来事ではなく1980年の事だものな…。

10万ウォンに目が眩んで他人の仕事を横取りし「私とトゥギャザー、レッツゴー光州」とか言う主人公のおっちゃん。
そしてルーさん英語みたいになってる字幕に笑ってしまうw
史実を元にした作品だが(脚色ありと最初にテロップが出る)、主人公の彼のキャラクターは創作だ。
ドイツ人ジャーナリストの彼は再会を果たせなかった=主人公の彼がその後表立って出てくる事が無かったという事なので。

「どうしてそこで喧嘩になるん??」と云う様な、かなり謎な怒りの沸点とか、事実確認をせずにとりあえず怒ったり、とりあえず謝ったりする様子を受けて、国民性かしら?ふふふっとなりつつ(?)
20分少々経過してから、そういう序盤のポップな様子から「なんかこれヤバイんじゃね…?」という風に作品の空気が変わる。
その時の空気が緊張感があって良かった。
悲惨な光景が広がって。
一旦街を出た時の光景が平和そのもので、、ぼんぼりまで飾られていて。
仕方がない事だが、別の街にいるのは、噂話のレベルを超えない真実やテレビや新聞の情報だけを信じる人々しかいなくて。

当たり前だが、テレビのニュースや人伝の噂話だけ、そして現代においては、誰が発したか分からないネットの情報だけを鵜呑みにしてはいけないよね。
受け手が、情報の1次ソースを確認して更に精査するという癖をつけた方が良いよね。
特にニュース番組については、善悪や伝える側の個人的な感情や意見は関係なく、あった事実をただ伝える事が彼らの仕事と思う。

途中女性から差し入れてもらって屋上で食べていたおにぎり、ソン・ガンホは美味しそうに食べるなぁ。
トーマス・クレッチマンが、多分座りなれていない床にそのまま座って、キムチなどの辛い食べ物を食べてふーふー言っていた場面はほのぼのでワロタ。
苦しい展開が多いので、こういったシーンを入れてくれるのは助かる。
ユ・ヘジンの役はいい人だったなぁ。。
でもあの後、彼の家族はどうなってしまうんだろう…という点は気になった。

軍人さんを全員が悪として描いていなかったのも良かったと思う…まぁ1人だけだったけど。

プロパガンダ臭がしなかった訳ではない。
「きっとこれは脚色部分だな」と思った部分や「“映画”してるなぁ」と思う演出も多かったが、その分とても観やすく仕上がっていたと思う。
何より主人公が完全無欠な正義漢として描かれていなかったのが映画作品として良かったと思う。
普通か、むしろそれよりちょっと駄目な感じの親父だったもんなw
そのおかげで彼の心境の変化も分かりやすかったし、共感できる部分も多かった。
観て良かったなぁ…。

すげーどうでもいいけど、ユ・ヘジン髪の毛多っっ!と思ったw
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