「大統領の理髪師」では、朴正煕(をモデルとした)大統領のお抱え理髪師役だったソン・ガンホ。
同作品では、ひょんなことから激動の歴史に巻き込まれる一般市民を演じてる。
そして今作では、ひょんなことから激動の歴史に巻き込まれる一般市民を演じている……って、同じじゃねーか!
今作でソン・ガンホが演じるのはソウルのタクシー運転手。滞納している家賃を払うために、職場で耳にした「ドイツ人記者を、警察と市民が激しく衝突する光州へと送り届ける」業務を引き受ける。
「大統領の理髪師」が1970年代の話で、今作は1980年が舞台。なので微妙に世界線としてはつながっていて、ソン・ガンホが「転生したらタクシー運転手になっていた」んだと考えながら観てしまった。
んで内容。ドイツ人記者とタクシー運転手が、色々と葛藤しながらも、最後は心を通じ合わせる……という、ベタベタな展開。それでも感動させられてしまうのは、やはり、ソン・ガンホの魅力によるものだと思う。
そりゃ、ツッコミどころは多数あるわけですよ。
都合の良い場面でタクシーエンスト起こしすぎやろ、とか、秘密警察の人たち、拳銃撃ちまくってるわりに、全く弾が当たってないやんけ、とか、ご都合主義な部分はいっぱい。
追いかけられて路地に迷い込んだら行き止まり、とか、都合よく現れる脇役たちとか、「このシーン、100回以上観たことある!」と思わせる場面が多数。
でもそんなこと、どーでも良いのです。ソン・ガンホがニコニコして出てきてくれれば、俺的にはそれでケンチャナヨ。
ドイツ人を招いた食卓にわざとらしく激辛キムチが混ぜてあってもケンチャナヨ。それでムセるドイツ人を皆で観て笑っててもケンチャナヨ。
ソン・ガンホとドイツ人以外、全員悲惨な目に遭っててもケンチャナヨ。
終盤、「ガタカ」そっくりのシーンがあるけど、これもケンチャナヨ。あんなに追いかけられてたのに、最後の方、急にユルユルになってないか? とか、実話系映画あるあるなラストじゃない? とかもケンチャナヨ。
これは「パラサイト」以降、「ソン・ガンホ」ロスに陥ってしまった人達に送る、ソン・ガンホ2時間一本勝負な映画。手越のヌード写真には興味ないが、ソン・ガンホならちょっと興味ある、俺のようなソン・ガンホファンに向けたファン・ムービーだと思いました。
ちなみに同じ「光州事件」や、韓国の1980年代の軍事政権をテーマにした映画で「1987、ある闘いの真実」もオススメです。光州のタクシー運転手を好演しているユ・ヘジンが、こちらでもなかなか味のある役を演じてます。
最後に一言だけ。この映画、日本だけ「タクシー運転手 約束は海を越えて」と、副題がついてる。
この副題、駅前にある意識高いパン屋の名前みたいだなー、ってのはともかく、最後まで観ても、約束は結局、海を超えてない気がするんだけど……そこんところどうなんだろう……。