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タクシー運転⼿ 〜約束は海を越えて〜のyoukiのレビュー・感想・評価

4.9
今年のアカデミー賞4部門を受賞した「パラサイト 半地下の家族」にも出ていたソン・ガンホ主演の実際の事件をもとにした韓国映画です。光州事件(1980年、朴正煕大統領暗殺後に光州市で起こった学生・市民の反政府・民主化要求運動とそれを武力鎮圧しようとした国軍との戦いで多数の死傷者を出した事件)を取材するために韓国に来たドイツ人記者と彼を空港から光州まで送ったタクシー運転手の絆を描いた話。

私は、ここ数年で様々な韓国映画を観てきています。そのたびに、韓国のエンタメ産業の凄さを思い知らされていますが、今作は自分が今まで観てきた韓国映画の中でも三本の指に入るほどの傑作でした。

この映画は、光州事件という1980年に起こった大規模な学生運動とそれを武力行使で抑えようとする軍の戦いをベースにしています。日本ではほとんど知られていない事件ですね。実際に私もこの映画を観る前はこの残酷な事件の話を知りませんでした。今作ではその市民が軍の人たちに虐められているシーンがたくさんあります。その映像はとてもリアルで生生しいものでした。この時、光州市ではタクシー運転手は凄く勇敢でした。けが人(運動をする市民)などの手助けをしたら即行反逆したとみなされ、痛い目に合うからです。この映画の主人公である運転手のマンソプは、実際光州に行く前まではそこの現状を全く知りませんでした。そして、行ってすぐにそこの目を覆いたくなるような状況と自分の立場がいかに危険かを意識します。

この映画の凄いところは、光州に主人公たちのタクシーがたどり着くまではコメディ映画なのです。英語が苦手なのに、無理やり嘘をでっちあげようとしたり、マンソプとその近隣住民との会話にもシニカル的な面白さがあります。そこから、段々と話は暗くなっていきシリアスな雰囲気になり、ついには学生が銃をつきつけられるところまで映画は恐ろしい展開を迎えます。そして、クライマックスはとても感動的です。何物でもない主人公たちや市民が協力し合い一生懸命軍とたたかいます。カーアクションのシーンもありますが、それはボロボロのタクシー車を使ったものですがほかのどのレース映画よりも熱くなりました。

実話を基に描かれた映画もほとんどが、映画のために事実に肉付けを加えられているので、この映画もどこまでが実話なのかはわかりませんが、よくできたノンフィクション映画なのは間違えありません。エンドロール前にあるピーター本人のインタビュー映像も凄くよかったですし、細かい部分のカメラワークや照明もとても凝っていて素晴らしかったです。韓国映画興味ないという人も是非見てください。絶対に忘れてはいけない過去に起こった出来事などはたくさんあります。光州事件もそういった重要な事件の一つです。その悲惨さをユーモア交え、私たちに教えてくれるのがこの映画です。
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