こうん

犬猿のこうんのレビュー・感想・評価

犬猿(2017年製作の映画)
4.3
僕にとって兄は日ごろお世話になっており、感謝してもしきれない存在だが、兄としてではなく一個の人間としていろいろな感情を抱いてもいる。
そんな兄から連絡があり「今度お前の家の近くで飲むから遅くなったら泊めてもらってもよい?」とのこと。
快くOKの返事して当日、全然連絡はなく夜0時をを過ぎて「もう来ないかな」と思って風呂に入って寝る準備をしていると「今からいい?」とLINEが。
翌日に何があるわけでもなかったけど正直めんどくさくなって、スルーしようかと思ったけど、妻の「え?マジ?」という眼差しに負けて、兄を深夜の自宅に招く次第に。
楽しく小一時間ほど飲んで寝たんだけど、あの時「めんどくせ」という気持ちを抱いてしまった自分がマジでムカつくし、しかしそういう感情が巻き起こるのも兄弟ならではでもあると思う。
事実「兄弟なんて血がつながっているだけの他人だからな」と忘れられないセリフを口にしたのは当の兄なんである。
そしてその言に妙に納得した自分も自分である。

吉田恵輔監督最新作は、兄弟姉妹の関係性にフォーカスしたオリジナルのトラジコメディだ。
そりゃあ神様だって兄弟ケンカするんだから、下々の存在である我々が、血のつながった兄弟姉妹といがみ合うのは極めて真実に叶っているのであります。

その永遠不変の兄弟姉妹の関係性だけで、卑近に下世話に剽軽に純化した兄弟姉妹映画を作ってしまうのだから、吉田監督の語りの巧さたるや…オモチロイ!

まず冒頭から人を喰っているし(窪田フアンへの牽制か?)、対となる兄弟・姉妹の設定の裏に潜む意地悪さ加減は、もう堪らないものがあります。
ホントこの人、よこしまな感情の発露を突き放したユーモアで描くのが上手です。
その兄弟姉妹の設定なんかはけっこう類型的ではあるんだけど、最終的には人間的な奥行きや多面性が見えるようなディテールが重ねられ、それぞれの人間性の正邪を膨らませて描写することになっている。
もちろん役者さんの演技が良いのもあるし、キャスティングの絶妙さ。

ニッチェの江上さんのマンガみたいな見た目から繰り出されるコメディ演技と悲哀の芝居のバランスが素晴らしかったし(ダンスも見事)、筧美和子さんの”おっぱいから上が優れているだけのバカ女”をものすごく体重のった感じで演じていて、演技の巧拙を超えたレベルではまり役だった。
このキャスティングを筧さんに振った吉田監督以下製作陣は偉いし、それを請けた事務所はさらに偉いし、その役をきちんと務めた筧さんが一番偉い!
この俳優が本業ではないお二人の掛け合いというか、コラボレーションは素晴らしかったです。
(公式HPの江上さんの相方が寄せているコメントが泣けました)

実際に友人の従姉が売れないグラビアアイドルやっていて一緒に飲んだことがあるんだけど、痛快な性格の悪さだった(愛嬌もあった)し、その本人の目の前でイメージビデオも観たのだけど、劇中まんまです。「初体験はいつ?」みたいな質問されていて、AVへのカウントダウンが始まっている感じでしたね、恐ろしい。
(その従姉はもう辞めていましたけど)

窪田&新井の兄弟描写も、盤石でしたね。
どういうわけか生まれ持った性質が全然違うのに比較され平等に扱われ「お兄ちゃんなんだから」「弟なんだから」「仲良くしなさい」と強制される関係。
一歩間違えれば修羅の道なんだけど、本作では吉田監督の優しさとユーモアがあって、厄介だけど愛おしい…という実感に充ちておりました。
この映画に関しては、陰になりがちだった姉(江上)と弟(窪田)のほうが屈折していて、ダークネスを抱えているんですよね。
兄・妹のほうが世間的にはダメ人間なんだけど、屈託のない人の良さもよく見えるようになっている。

血縁の近親であるという呪縛から発するあらゆる感情の乱反射で魅せる悲喜劇。
面白かった。
兄弟姉妹の葛藤って、両親や家族の存在や関わりが大きいんだけど、その両親を空気のように描いているのがより兄弟姉妹間のドラマを強調することになっていて、良かったのではないかと思います。
あと、拓司まわりの悪い人のモノホン感が凄かった。あの安いキャバクラのとっぽいボーイの人、マジ怖い。筧美和子の事務所の人じゃないだろうか。
(あのキャバクラの拓司に乳揉まれている時のキャバ嬢の顔もサイコー)
ちょっと図式的なキャラクターや展開が気になるところがあったし、終盤の絶対出てくると思った8㎜フィルム調のアレには、ちょっとな…と思いましたが、めちゃくちゃオモチロイです。

吉田恵輔監督みたいな作家性と娯楽性を持った監督がコンスタントに映画を作れていることが喜ばしいし、次回作である「愛しのアイリーン」(色んな要素で映像化不可能と思っていた)がすげー楽しみだ。

そろそろ僕は、その肢体も含めて筧美和子が好きであることを公言しようと思う。
(「銀の匙」の広瀬アリスといい、本作の筧美和子といい、吉田監督とは膝を突き詰めて話し合いたいものである)