MOON

犬猿のMOONのネタバレレビュー・内容・結末

犬猿(2017年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

オープニングで「あれ?まだ予告か…」。ここでもう監督の悪意が生かされてる(笑) 流行りの胸キュン映画に対するアンチテーゼ?あのわざとらしさが最高に意地悪w

暴力的でトラブルメーカーな兄に振り回される真面目な弟。…の構図で始まったはずなのに弟の言動に何とも言えない不穏さ、違和感を覚えてザワザワしてくる。抑えこんではいるけれどジワジワと滲み出てきてしまう悪意。それを窪田くんがど真ん中のお芝居で見せてくるから引き込まれ感がハンパなかった。目線の動かし方や話し方、声のトーン。腹黒さや狡猾さが所々で見え隠れする。じっくり見てれいれば何かがおかしい…って気付くし、いつも近くにいた兄はそんな弟の本質を全部わかってたんだろなってところが物凄くリアル。でも兄は分かってても飲み込むんだよなー。そこがホントお兄ちゃん。根っこは優しいんだよ。

一方、姉妹の方はとても分かりやすい。相手が傷付くこと嫌がることを誰よりも知ってて、そこをピンポイントでつついてくる感じがもうエグくてエグくて。でもそれぞれが持つコンプレックスや嫉妬心が分かりすぎてしまうのでツライな痛いなという共感に。

自分のきょうだいと重なる部分はあまりなかったけれど断片的に「分かる!」が散りばめられているからあっちこっちに感情移入してしまう。誰か1人にではなく その時々で「分かる!」を繰り返すので結構消耗します。でも感情をグラグラ揺さぶられるの大好き。

積年のいろんな思いをぶちまける爆発力からの空虚感。この緩急にめちゃくちゃ泣けた。言いたいことを全部ぶちまけてもスッキリするどころか即座に後悔と自己嫌悪に襲われる。相手を傷付けてしまった事に自分も傷付いてしまう。ああなった時の苦しさ、分かりすぎてしんどかった。

身内だから許せること。許せないこと。今回は大きな喧嘩と大きな事件がそれぞれの関係をぶち壊して立て直してく。スクラップ&ビルドだなぁって気持ち良くなってたんだけど、そう簡単には行くまいってラストが最高すぎた。

ただの良いお話にしてしまわない吉田監督の世界観。すごく好きだなぁとしみじみ。笑いもあってほのぼのとしてそうでグサッと刺してくる毒気があって。容赦なさそうに思えて ふとした優しさがあって。一筋縄では決していかない。拗れて捻れて綺麗ごとばかりじゃない人間の本質をグイグイ抉ってくるのホントに凄かった。

あと演者の表情をあえて捉えないカメラワーク。そういうので観る側の想像を駆り立てる手法は観客を信頼してのものかなと。とにかくキャスト含め大好き要素が詰まった作品でした。良作です。
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