ノラネコの呑んで観るシネマ

鈴木家の嘘のノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

鈴木家の嘘(2018年製作の映画)
4.3
引きこもりだった息子の自殺を目撃し、ショックで記憶を失った母のため、残された父と娘が優しくて残酷な嘘をつく。
母が意識不明だった間に、息子は叔父の会社に就職してアルゼンチンで働いてることにして、母に本当のことを知られないため涙ぐましい努力をする。
しかし、その嘘を取り繕う時間は、父と娘にとっても息子の悲劇的な死と向き合う機会となる。
二人とも、ずっと引きこもっていた息子との関係に大きなわだかまりを抱えていて、それは彼が死んだ今、強い罪悪感となって二人にのしかかっているのだ。
どんなにぶつかり合ったとしても、相手が生きていさえすれば、いつかはわだかまりも解消するだろうと希望が持てる。
でも死なれてしまっては、葛藤はどこへも持っていくことが出来ないまま、心の中で大きくなってゆくばかり。
だが、遂に鈴木家の嘘がバレる日がやってくる。
その時、家族はそれぞれの傷を、家族という共同体の傷として共有することで、よろけながらも支え合い、少しずつ癒されてゆく。
息子の死という事実は変えられないけれど、彼が残してくれたものも確実にあるのだから。
鈴木家の人々を演じる俳優たちが皆素晴らしい。
野尻克己監督は、この悲劇にして喜劇のドラマを味わい深く描いて、抜群の安定感。
ベテラン助監督のデビュー作にして、燻し銀の熟成度だ。