岡田拓朗

ハード・コアの岡田拓朗のレビュー・感想・評価

ハード・コア(2018年製作の映画)
3.6
ハード・コア

家族なんていらねぇ。
俺たちは空だって飛べるんだ。

一言で言うなれば、シュールな近未来リアリティファンタジー。
何というか、リアリティとファンタジーが入り交じったような不思議な空間を味わうことができた作品だった。

そもそもの設定や物語にはリアルなものを感じとり、それを彩る全体的な世界観や演出に至ってはファンタジックに感じる。
物凄く山下敦弘監督が撮りそうな映画だなーという印象。

ファンタジーをただのファンタジーに落とし込まないっていうか、その中に描かれる人間らしさというか、人間味が何とも山下監督っぽくて個人的には好みな作品だった。

都会の片隅で細々と、でも自由に生きる右近(山田孝之)は、世の中に蔓延る違和感や不条理に対して、自らの思う正しさ、いわゆる信念を暴力の形で昇華してしまい、その行動自体が理解されずに、仕事も居場所もなくなっていた。
世間で言うところのはみ出し者といったところだろうか。

それとは正反対に生きる弟の左近(佐藤健)は、腐った世の中にうんざりしつつも、それと上手に折り合いをつけて生き抜くエリートサラリーマン。
迷惑をかけられ、定職につかずに自らの信念に従って、いわば自由気ままに生きる兄右近のことを毛嫌いしつつも、どこか羨ましさを感じているようにも見えた。

右近の唯一の友人と言えるのは、世直しを謳う怪しい活動家のもとで埋蔵金探しとして共に働く牛山(荒川良々)のみで、牛山もまた、世間に受け入れられずにはみ出し者として生きている者であった。

謎の結束で繋がる2人、右近は牛山のために奮闘するも牛山は、誰にも受け入れられず、生きる上での小さな希望すらなかなか叶わない。

そんな中、謎の古びたロボットが、彼らのもとに現れたことで、彼らの人生が変わりそうな予感が出てくる。

ここで、今後テクノロジーを牽引していくであろうロボットとの付き合い方についても、触れられているように思える。
右近と牛山は、それらを仲間として、本当に感情を持った人として純粋に受け入れたが、左近はお金を得るための道具として使おうとしていた。
感情を持たないものとして、仕事を遂行するために今まさに作られているそれらとどのように付き合っていくか…そのスタンスが問われているような気がした。

右近も牛山も純粋すぎるからこそ、表面だけにしか目がいかないし、言われたことをただただ鵜呑みにして信じる。
利用されているだけかもしれないという考えには至らずに、拾ってくれたという恩だけをずっと胸に、人に忠誠し続けていた。

その中で、探し続けていた埋蔵金をロボットの使い方で発掘することを勧める左近。
それに乗っかり見事埋蔵金を発掘した右近と牛山。
見つけたそれらを団長である金城銀次郎に報告するかどうか、を左近の考えを聞くことで悩み、ある決断をする。
そして事態は思わぬ方向に向かい…

誰かのために行動することができて恩を与えることができる人が、最終的に最先端ロボットに救われていくこの物語は、近未来にとってのリアリティになるかもしれない…というかなって欲しい願望。

純粋に人を信じて誰かのために行動できる優しい人が報われない構図が、最先端テクノロジーによって救われ報われる世の中を理想として、ファンタジックに、でもリアルに描くこの世界観は観る人によっては心動かされるものがあるのではないかと。
理想郷として心に留めて置きたい世の一つのあり方になるかもしれない。

今後テクノロジーがどのように使われていくかは使う側の人次第で変わると思うが、このような使われ方はなんか素敵だなと思えた。
正義や正しさをどう定義づけるかはさておき、明らかな理不尽により弱者が不幸になることは防がれる世の中。
その境界線を作るのもまた人なので難しいところなのでやっぱり誰がどう使うのか、はとても大切な気がしますね!

左近は悪者に映ってるように見えるかもですがこれはおそらく人の捉え方次第で変わるような気がします。
ちなみに自分は彼を初めは嫌なやつだなと思っていましたが物語を追うごとに変わってきました。
そして最後のシーンで実はシステムをいじって右近と牛山のために動きつつ、お金を全て自分の手に持ってくることも戦略のうちだった策士だったのかなと。
あの流れは偶然か必然か…どちらにせよその策士的行動で結果みんなハッピーになっていたのは凄かった!

まあでも右近と牛山が原始的な国にロボットにより飛んで行き幸せを掴んでいて左近が日本で莫大なお金を掴んで帰って来て暮らすんだろうなーというラストの構図から、右近と牛山のような人が(守る人がいない状態で)今の日本で心を豊かに生きていくのは厳しいですよ、という結論を出してるようなもんでもあった。

こんな物語の広げ方と収束の仕方があるんだなと。
色んな意味で策士な作品だと思った。

P.S.
好き嫌いわかれるかもですが、山下敦弘監督作品が好きな人は一定ハマれるんじゃないかと思います。
キャストや予告的な部分でコメディ作品を期待していくとわりとズレる気がするのでそこは注意必要かもです!
岡田拓朗

岡田拓朗