ニシカ

ハード・コアのニシカのレビュー・感想・評価

ハード・コア(2018年製作の映画)
3.3

「自信がないからハードボイルドで誤魔化してるだけだろ」

社会からはみ出したのか、入れなかったのか、曲げれない漢達の垢汚れたSFエレジー。


怪しげな活動家に師事し、埋蔵金発掘を細々と手伝い生計を立てる不器用で真っ直ぐすぎる権藤右近。同じく同僚で廃工場で寝泊まりする牛山。彼はうまく話すことができず、右近よりさらに社会と迎合できないが、右近は牛山の童貞脱却を指南したりと二人は日銭を稼ぎながら仲を深めていく。また右近の弟で商社勤務の左近は、そんな兄を軽蔑しながらも気にかけていた。
怠惰に過ぎていく日々の中、牛山の寝泊まりする廃工場で発見されたオンボロなのに中身は時代の先を行くハイテクのロボットが、社会からはみ出した男たちの運命を変えていく。
漫画『ハード・コア 平成地獄ブラザーズ』の映画化作。

◇制作は、
プロデューサーに山田孝之。
監督に山下敦弘。

「山田孝之の東京都北区赤羽」「山田孝之のカンヌ映画祭」でもお馴染みのコンビによる制作です。メジャーとマイナーの間をすり抜けていくようなポジショニングの、カオスな面白さを表現する作品が多いですよね。
コンビ作以外だと山下監督は「苦役列車」「オーバーフェンス」「味園ユニバース」など撮られています。


役者陣は、

権藤右近にMr.ジョージアコーヒーの山田孝之。ガラケー越しにチュパチュパと渾身のテレフォンセックスを披露してくれています。

右近の弟、エリート商社マンの左近役に佐藤健。オフィスの窓際で制服社員女子に立ちバックでフンフンフンと突き倒しております。

右近の親友・言葉を上手く操れない牛山役に、カロリーメイトのイエロータイツ姿が今や懐かしい荒川良々。満月を背景にフルボッキで欲情をコントロール出来ず遠吠えするシーンが印象的です。


はい、そうなんです。
この映画は最近では稀に見るレベルの野郎目線の物語に仕上がっております。




観終わって、

歳を重ね生きていく上で、世の中に自分なりに折り合いを見つけ、妥協して社会のサイズに合わせて生きていく。彼らはピュアと表現されるが、そうではない。歪んだまま真っ直ぐに生きてきた為、折り合いも妥協も出来ないということ。そして見た目は年相応に老け始めてこの世の中で生きにくい不器用な人達。その先細りの狭き世界から突破する道が無いことを理解しながらやり過ごす日々。そんな中、廃工場から現れた最先端テクノロジーが搭載された自我を持つロボオが彼らの仲間になる。エリート商社マンの左近は、ロボオで一儲けを考えようと提案するも、右近、牛山はあくまで自分達の仲間であり、ロボオを使った金稼ぎには断固反対する。ドラえもんだって、ロボオだって時代を超えた最先端ロボットなのに、彼らは心は優しくも不器用な男に寄り添うのである。ただそこに一緒にいることを選ぶのである。
ひとりは寂しいんだよね、きっと。

金や女や社会的地位を奪い合う人生レースとはまた別次元のひとりじゃないという幸せのカタチ。バーに身を寄せる人、時に兄の様子を伺いにくる煙草の吸う仕草が兄と同じの弟、寄り添う肌を求める女。
そう、人は誰かを求める。

つまらない日常が身近な異常に侵食される中、ある日現れたロボットが日常と異常を曖昧にさせる。このカオスな物語が紡ぐのは社会に居場所がない悲哀で不器用な人達が溢れかえっているが、救いの手は消えてしまうことが最適解だったこと。

制作チームは原作に無いエンディングを足すことでわずかな救いを提示している。

生きてりゃ出てくるやり場のない感情を表現した作品であり、角度は違えどある程度生きてきた年齢には刺さるわけです。

山田孝之はその感情を表現することが上手い。
彼が愛する世界がそこにあるから。
ニシカ

ニシカ