マクガフィン

泣き虫しょったんの奇跡のマクガフィンのレビュー・感想・評価

泣き虫しょったんの奇跡(2018年製作の映画)
3.4
挫折と再生と復活の物語。原作未読。

隣人で幼少期から切磋琢磨したライバルで親友、夢を尊重する小学校の担任教師、将棋だけでなく礼儀作法を学ぶ将棋道場、子供の夢に寛容で理解力がある父親、奨励会時代の仲間達。飄々とした普遍的な主人公・瀬川(松田龍平)だが、周りの環境に恵まれたことは大きく、人格結成にも重要に。それが人生に多大な影響をもたらし、大きな原動力に。

過酷な競争を繰り広げる奨励会では、モラルに反した非情な戦法を使う人もいるが、そんな環境の中でもモラルを見失わない人格が、常に周りに人が集まり、多くの人が支えてくれる一因に。

奨励会から次々に脱落していく仲間たちを尻目に、それでも「自分は大丈夫」と思い込む正常性バイアスは、誰もが持つ人間の弱さと奨励会の過酷さを同時に表すようも。松田龍平の演技に余計な力みが全くなこととマッチして秀逸。何かの感情を無くしたような異質な対局室の光景も印象的に。

特殊な将棋の世界を、世間一般との誤解や、認識の隔たりをさり気なく取り入れることが上手く、内側から描く世界観の構築に効果的で、閉鎖的な業界に風穴を開けた爽快感に繋がる。

奨励会退会後の虚無的な生活に、寛容な父親の姿勢に関心する。長年に渡たり築いた喪失はとてつもなく大きく、充分に休んで英気を養うことも重要だろう。

サラリーマンを経て再挑戦する経緯は対プロ戦の好成績に拠るものの、周りのサポートも大きく、瀬川の人間的な魅力でもある。逃し続けたチャンスを長い年月経て、自らの力と多くの人の支えで、前例がない道を切り開く模様に感銘する。