TAK44マグナム

デス・ウィッシュのTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

デス・ウィッシュ(2017年製作の映画)
4.5
信仰か、銃か。


悪趣味ホラーからの脱却をはかるイーライ・ロスがブルース・ウィリス主演で、故チャールズ・ブロンソンの代表作であった「狼よさらば」をリメイクしたヴィジランテ映画。


有能な医師として働くポール・カージーは、自身の誕生日の夜、自宅に押し入った強盗に愛する妻を殺され、娘を意識不明にされてしまう。
警察の遅遅と進まない捜査に業を煮やしたカージーは、偶然手に入れたグロッグ拳銃を使って、次々と街のダニを射殺開始!
昼は医師、夜は処刑人という異常な二重生活をおくり始める。
その存在は、あっという間にSNSで拡散され、「死神」と名付けられたカージーは、遂に強盗たちの正体を探りあてるのでした。


主人公のポール・カージーがオリジナル版だと建築設計士だったのを、「命を救う者が命を奪う」という矛盾をより鮮烈に印象付けるためか外科医に変更している他、舞台をニューヨークから、現在ではより治安の悪いシカゴに変えたり、レーティング対策なのか娘への凄惨なレイプは無いなど、多少の改変はあれど、概ねオリジナル版にあった要素をストレートになぞっていると言って差し支えないでしょう。
しかし、後半になると事件の真犯人への直接的な復讐に舵をとるので、社会性や倫理観に真正面からぶち当たったオリジナル版よりも、だいぶロマンチシズムを重要視した、ある意味ファンタジックな作品に仕上がっていると思いました。

ここのところ、やっつけ仕事ばかりが目立っていたブルース・ウィリスですが、本作では本来の魅力をあますところなく発揮。
家族思いの社会的成功者でありながら、段々と銃や殺人に魅入られてゆく姿を非常に繊細に演じているなと感心させられました。
特に、義父に「自警することの意義」を問われた時のハッとした表情や、初めて殺人を犯した高揚感、そして犯行を重ねて冷徹な殺人マシーンと化してゆく様・・・改めてブルース・ウィリスという役者の細やかな表現力は評価に値すると思いましたし、たんなる脳筋なアクション俳優ではないことを思い出させてくれました。
企画段階では、リーアム・ニーソンやマット・デイモンの名も挙がったそうですが、製作のタイミングやイーライ・ロスとの相性からしてブルース・ウィリスで正解だったのではないかと思います。

本作のテーマは、ズバリ、「貴方ならどうする?」
イーライ・ロスも、いたずらに銃を使うということを賞賛する映画などではなく、「もしも最愛の者を理不尽な理由で奪われた時、貴方に復讐するパワーがあったなら、それを使うのか使わないのか?」という事を問いたいといった趣旨の発言をしています。

オリジナル版が直接的な復讐を描くことなく、ポール・カージーが自警活動を辞めても、中身はすっかり殺人者に変わってしまっているんだという恐ろしさを淡々と描写していたのと反して、本作があくまでも派手めな復讐譚で完結しているのは、「復讐の刃は是か非か」ということを一番のテーマにしたかったからなのでは?
その点では、「狼よさらば」の続編である「ロサンゼルス」に近い部分があるかもしれません。

テレビやラジオ番組、そして市民の声が頻繁にインサートされ、突如として街に現れた「死神」の存在を肯定すべきかどうなのかを、観ているこちら側に常に問いかけ続けます。
「凶器」と「武器」とでは意味が違い、銃はそのどちらにもなる道具です。
銃は人をいとも簡単に殺人マシーンにしてしまう。
しかし、相手が武装する以上、銃を持たねば身を守る術がない。
このジレンマに、銃社会であるアメリカは、この先も永遠に悩み続けるのでしょうか。

州によってはあまりにも簡単に銃器が入手でき、子供も観られる動画サイトやテレビCMにも銃器販売や所持を推奨する映像があふれている現状。
まずはそこから変えてゆかなければ、凶悪な犯罪も、命を賭けた自警活動も減るわけが、ましてや無くなるはずがありません。
第二、第三のポール・カージーを生み出し続けるだけなのです。


「キャビンフィーバー」や「ホステル」、「グリーンインフェルノ」の監督であるイーライ・ロスにしては、割と正攻法で遊びの少ない、アッサリとした作品という印象を受けました。
それだけに物足りないと思うむきもあるでしょうけれど、拷問からのペシャンコ!とか、イーライ・ロスっぽい部分も少ないながら垣間見えますし、ジャンク風味を抑えた軽いスリラーとしての鑑賞をオススメ致します。

フードを被っただけで正体が割れないのは些か現実的ではないなという点と、娘の意識が戻った後、あまりにも早く立ち直りすぎなのではないか?が、ちょっと気になった程度で、マグナム的にはテーマをしっかりと持った良作に感じられ、満足度が高かったです。

それと、娘役のカミ・モローネが美しかった!
さすがはレオナルド・デュカプリオのカノジョですね!


劇場(TOHOシネマズ海老名)にて