ベルサイユ製麺

YARN 人生を彩る糸のベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

YARN 人生を彩る糸(2016年製作の映画)
3.7
YARN 【ヤーン】
(名詞)織物や編み物に用いる糸で、天然素材や合成繊維を紡いだもの。
(動詞)よくできた冒険譚をたっぷり話すこと。面白い話をすること。
(語尾として)渡辺徹に代表されるエセ関西弁の使い手が用いる。話の本来の面白くなさを誤魔化す為に多用されるが、逆効果でしかない。

冒頭に映し出される説明文に、一部自分の言いたいことを交えてみました。
四組の、ニットを使ったアーティストの活動に迫るドキュメンタリーです。
⚫︎ティナ…出身地のアイスランドを中心に活動。伝統的なかぎ針編みでフェミニズム的思想を表現。
⚫︎オレク…ポーランドから渡米。かぎ針編みの大きなシート使いが特徴。ヴィヴッドな色味とアグレッシブな活動。アート志向が強い。
⚫︎サーカス・シルクール…デンマーク拠点のパフォーマンスアートグループ。フォームとしてはサーカスに近い。白(生成り?)しか使わないようです。
⚫︎堀内紀子…東京出身。多摩美卒後渡米。現在、イタリアを拠点に活躍中。強靭なナイロンを使用した巨大なハンモック状の遊具を作る。

この四組がトーナメントで戦ったりはサイファーしたりは別に無くて、創作の現場や発言を捉え、それを並列に並べてみせるだけというスタイルの潔い構成です。“エコ”だとか“スローライフ”みたいなお題目を唱える訳でも無くて、ただニットの素敵さを見て、めいめい何か感じてください…ぐらいのスタンスに思えます。

当たり前ですけどニットを使った表現は見え方も背景もそれぞれで…
ティナ🇮🇸は、ジブリのおっかさんみたいな体格ですけどチマチマしたのが好き。男性的なデザインの街並みに、家庭から持ち出した女性的なデザインをパッチしていく。交通標識のポールをニットで巻いたり、そこらの壁にドリームキャッチャーみたいな星状のモチーフを釘(!)で打ちつけたり。やってることは実はエアロゾルアートのニット版みたいだし、完成品をパッチする事や見た目のホッコリ感からフランスのアーティストINVADERを思い浮かべました。ストリート!
オレク🇵🇱は街を舞台にガンガン仕掛けていきます。明確にコンセプトアートだし、アクティヴィストっぽい。パッと見、ビタミンカラーのデジタル迷彩みたいな柄の巨大な平編みのシートで人をまるごと包んで練り歩かせたり、SLをスッポリ包んじゃったり。ニットが実用的であるが故にアートと見なされないことに憤ってます。あとアート界のマチズモにも。いかにも!
サーカス・シルクール🇩🇰は、モダンコンテンポラリーサーカスって感じです。セットの構造物の基礎は別の素材(安全性を考えてだと思う)でテクスチャだけがニットだったりするので、ニットそのものよりはイデアが大事なのでしょう。ふつうの軽業のような事をしていてもどこか静謐な雰囲気が漂います。基本的に白しか使わない事もあり、個人的には全く逆のアプローチのライゾマティクスのパフォーマンスに通じるセンスを感じました。
堀内紀子🇯🇵は…
全部書くのはやーめた☻
気になったら観てください。
…識ると織るは似てますね。knowとknitもちょっと似てる…?
そういえば、ご本人が堀内“紀”子の“紀”の字は糸と己で出来ていると仰ってました。だから自我が強いのだそうですよ!!彼女の作品は日本にもいくつかあります。割と近所にもあるので今度改めて見てこよう。

別に映画が声高に叫ばなくても“環境に優しく”は当たり前なのですが、“ニット”っていうダメージが可視化されやすい素材が題材なのが、普段の生活に目を向けるのに効果的なのだと思います。例えば、ニットのコートの“重くて纏わりついて痛みやすい”っていう特性は利便性は低いかもしれないけど、そういった物との付き合い方を考えていくうちに見えてくるものってありますよね。
あと、単純に凄く手編みしたくなりますよ!以前『関根くんの恋』という漫画に触発されて編み棒と毛糸を購入したのだけど、何にも思いつかなくてそのままになってしまった事が…。これを機にもう一回チャレンジしてみようかな?作る事の大変さを知れば、物を大切に出来るはず。
…普通!!結論が素朴!!
…イェーイ。ピース、ピース✌️