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花筐/HANAGATAMIのYOUのレビュー・感想・評価

花筐/HANAGATAMI(2017年製作の映画)
4.0
大林宣彦が監督・共同脚本を務めた、2017年公開の青春ドラマ。
大林監督が商業映画デビュー作『HOUSE/ハウス』より前に執筆していた脚本を長編映画化した本作は、『この空の花 長岡花火物語』『野のなななのか』に続く“戦争三部作”の完結編。まず本作を観て興味深いと思ったのは、この戦争三部作は回を重ねることでジャンルや語り口、時代設定など「作品全体のアプローチが対を為すように構成されている」ということです。大まかに要約すると第一作『この空の花』は「ドキュメンタリータッチで語られる社会派現代劇」、続く『野のなななのか』は「過去と現在を交互に描いた仏教的寓話」、そして本作は「太平洋戦争直前を舞台とする青春群像劇」という事で、時代設定は徐々に過去へと遡っていき、それに連れて物語はノスタルジーや官能性を多分に含んだ”純愛ドラマ”が中心となっていきます。一方で様々な映像技法を駆使した語り口のアバンギャルド性や物語のファンタジックな側面は徐々に減衰しており、従って戦時中での緊張感や悲壮感はより生々しく描写されています。特に今回は戦争が間近に迫る中での”切迫した雰囲気”を嫌でも体感させられますし、そんな理不尽な世の中で懸命に生きる若者たちの熱く真っ直ぐな青春模様には何とも胸が痛みます。また本作は登場人物の造形や描き方も非常に印象的です。特に主演の窪塚俊介さんは”主人公的でない主人公”の榊山俊彦を見事に演じられていますし、彼のキャラクター造形は本作の持つテーマ性とも完全に直結していると思います。幼児的とすら言える彼の抑揚の効いた表情や喋り口調からもこの主人公は他の2人に比べると圧倒的に未熟であり、すぐに周囲から影響を受けたり流されたりする”主体性の無い男”なのですが、これはまさにかつての戦争の歴史や現代の社会情勢に対して全く無関心だったり、もしくは関心のある振りをしている”現代の日本人の姿そのもの”だと言えます。そして彼がその事を観客に向けて問い掛けてくるあのラストからは、一貫して戦争の悲劇を描いてきた戦争三部作の完結編に相応しい”現代人に向けた鋭い問題意識と多大なる期待”が感じ取れました。

大林監督の代表作と言えばやはり”尾道三部作”が真っ先に挙げられますし、実際自分もそこを入り口に大林作品独自の世界観に魅了されていきました。しかし20代前半の自分としては、大林監督がデジタル時代に突入し心機一転した、そして次代を担う現代の若者に向けて作られたこの”戦争三部作”の方が一作ごとへの理解や関心は段違いに高かったです。この三部作では一貫して「戦争」を「いつまでも語り継ぐべきもの、いつの時代も決して忘れてはならないもの」として捉えられており、現代の日本からは「戦争・敗戦が残した教訓」が”徐々に失われつつある”という大林監督の危機感や焦燥感が意識的に反映されています。もちろん三作共に大林流の奇想天外な演出や不自然な描写は無数に散りばめられており、本作に至っても「変な映画」だと困惑すること必至な作品ではあります。しかしこれは大林監督ご自身もコメントしている通り、そういう風に困惑したり理解に苦しめられることで観客は図らずも自分なりに噛み砕いたり解釈しようと努めることを余儀なくされます。もちろんそこには多種多様な受け取り方が生まれますが、それでも本作が観た人全員にとって「忘れられない一作」になることだけは明白です。監督はそこにこそ「忘れてはならない戦争の記憶」を託しているわけですし、一見ヘンテコでぶっ飛んだ映画のようにも見えるこの三部作(及び大林作品)は極めて芸術的な価値観に基づかれていると思います。本作は三部作の中でも最もエモーショナルかつ文学的な作品ですし、大林宣彦の魅力に惹きつけられるどころか”映画を観ることの意義や本質”までをも気付かせてくれるような一作でした。大林監督ありがとう!

















































































































































こんなに長い映画を3連チャンで観たのは「ゴッドファーザー」以来。なかなか勇気がいるけれど、それによって得られるものも莫大。今度観るときは『花筐』から遡ってみようかしら。
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