小一郎

花筐/HANAGATAMIの小一郎のレビュー・感想・評価

花筐/HANAGATAMI(2017年製作の映画)
4.0
大林宣彦監督作品は『転校生』をテレビで見た記憶があるくらいで、実質的に初鑑賞。著名監督にもかかわらずミニシアター系の劇場でしかかからない本作を、大林ファンというわけでもないのに見たのは『デルス・ウザーラ』の感想文を書く際に読んだ大林監督のスピーチにちょっと感動したから。

CMディレクターで自主映画出身らしい、個性的で美しい映像表現と強い作家性に、肝心の内容が何だかよく入ってこない。だから2回観た。それでも自分なりに腑に落ちてはこなかった。

何が原因かを突き止めたくてググって、本作の製作に密着したNHKのドキュメンタリー番組「青春は戦争の消耗品ではない 映画作家 大林宣彦の遺言」の内容を知り、ようやくつかめてきた。

大林監督は言う。「僕は戦争反対とは言えない、戦争嫌だとしか言えない。(戦争に)反対する権利もない、それはかつての軍国少年ですから」。「戦争に対しては怯えていないといけない。過剰に怯えていたほうが間違いがない」。

戦争を経験した人達が例外なく抱いたであろう戦争に対する嫌悪感と怯え。戦後しばらく“嫌戦”の雰囲気は強かった。戦争なんて嫌で怖いことをしたい人が、いるわけがないはずだった。

しかし、戦争経験者が少なくなっていくにつれ怯えの実感は遠のき、“嫌戦”の雰囲気も薄らいで、日本は自ら戦争ができる国になってしまった。だから今、本作なのだと。

戦争に対する怯えとは何か、戦争の何が嫌なのか--。それは本作の核心であり、これが腑に落ちないと本作の真価がわからないと思う。想像力の乏しい自分に教えてくれたのが、生前戦争について何も語らなかった、軍医だった大林監督の父親の手記。

「やっと戦時生活が終わった。これで自分の意志で考え自分の意志で生きていける。本当の人生がまた帰ってきた。」

父親は、医師の道に進まず映画監督になると告げた大林監督にこういったという。「心に決めた道に進めるのが平和なんだ。お前は平和の世の中を充分に生きなさい」。

押し付けられた戦争という道へと進むしかない時代、自分の意志で考え自分の意志で生きれないという怯え、嫌悪感。このことへの想像力が高まると、登場人物の気持ちが自分の心にも沁みてくる。

本作のテーマは鵜飼の台詞「青春が戦争の消耗品だなんてまっぴらだ」であり、「自分の命くらい自由にさせてくれというあの痛切な気持ち」(大林監督)を描いている。そしてそんな時代に自分の意志でできることはひとつしかないのだ。

誰しも辛い過去は思い出したくない。言っても伝わらない、こんな思いは自分だけでたくさんだ、と伝えようとしない。だから、自分の生を自分の意志で自由に生きたいのであれば、語ってくれる人の言葉は積極的に聞かなければならない。100年先も残る可能性のある映画であれば、見ておかなければならない。これはそういう類いの映画ではないかという気がする。

本作の撮影開始前の顔合わせで、自身がステージ4の肺がんであり余命は半年と宣告されていることを明かし、セカンドオピニオンで3カ月と告げられた大林監督が、がんと闘いながら完成させたのは、もちろん平和、すなわち心に決めた道に進める世の中であること、に対する強い思いからだろう(その後、抗がん剤治療が効いて「余命未定」になった)。

しかし、大林監督でもかつては、戦争反対と言っても伝わらないという虚しい思いを抱え、『この空の花 長岡花火物語』まで戦争を真正面から取り上げた映画を撮ってこなかった。そんな自分のことを、意識的ノンポリとして描かれる主人公・榊山俊彦に投影している。

「お飛び、お飛び、卑怯者」の念に駆られ、これからも映画を作り続ける大林監督の本作をどう受け止めるにせよ、戦争を知らない自分が見る価値は十分にあったと思う。

●物語(50%×4.0):2.00
・もし、自分の生を自分の意志で自由に生きたいのであれば、受け止めるべき内容。本作だけ見ても十分腑に落ちなかったけれど、考えるきっかけは与えてもらった。

●演技、演出(30%×4.0):1.20
・自由な配役に好き嫌い分かれると思うけれど、面白い。

●画、音、音楽(20%×4.0):0.80
・幻想的な表現も好みがわかれると思うけれど、自分的にはアリ。